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4ー2:午前10時のブレックファスト (4)

ツナマヨエッグサラダクレープは、予想以上に理人さんのツボにハマったようだった。 俺もジョギング明けでかなり腹が減っていたからガッついている自覚はあるけれど、理人さんの勢いはそれ以上だ。 気がついたら、理人さんはあっという間にふたつを平らげていた。 美味い美味いと満面の笑顔で食べてくれるから、俺も自然と口角が上がる。 理人さんは三枚目のクレープ生地を皿に広げて、楽しそうにストラップ状になったレタスを乗せた。 そしてツナマヨと卵の輪切りを適当に乗せると、長く繊細な指で黄金色の生地の端をそうっと持ち上げる。 「これ、明日も食べたい」 「プッ、そんなに気に入ってくれたんですか?」 「うん。美味しいし、巻くの楽しいし、佐藤くんが気付いてくれてたのが嬉しかったから」 「気付いてって?」 「俺が食べてみたいって思ってたこと」 「……」 「ん、どうした?」 不思議そうに首をかしげる理人さんの瞳に、扇型のクレープを手にした間抜けな俺の顔が映っていた。 「理人さんって……」 「なに?」 「……」 「え、なんだよ?」 「……いえ、なんでもないです」 「言いかけてやめるなよ。気になるだろ」 時々、わざとかと思うくらい本気で煽ってきますよね。 「……やっぱりいいです」 「なんだそれ?」 理人さんが眉間に皺を寄せながら、綺麗な正方形に包まれたクレープの角をひと口頬張った。 「ん、美味い。あ、佐藤くんさ」 「はい?」 「今日、どうしたい?」 「どうって?」 「どこか行きたいとことかあれば行くし、ほしいものとかあれば一緒に買いに行くけど?」 「うーん、そうですね……」 自分もクレープを頬張りながら、右隣の理人さんに視線を移す。 もごもご動く唇の端っこに、マヨネーズが付いていた。 右手を伸ばしたけれど、俺の指が届く前に、理人さんの赤い舌がマヨネーズをぺろりと舐めとった。 たったそれだけの光景なのに、目の裏がカッと熱くなる。 鼓動が早くなり、股間が疼いた。 「あっあっ……佐藤くっ……誕生日、おめでとぉっ……ん、んんんっ」 昨夜12時に送られた言葉が、頭の中に蘇ってくる。 ありがとうございます、と返事をしたくて、でもできなかった。 理人さんは、俺の誕生日を祝いながら俺の口の中でイッた。 全身をブルブル震わせながら、俺の舌の上に熱い精を放った。 俺の生まれた日を、生まれたままの姿で俺に組み敷かれながら祝ってくれた。 そのあと理人さんは疲れて俺の腕の中ですぐに眠ってしまったけれど、俺はしばらく自分の中に湧き上がる衝動を抑えるのに必死だった。 理人さんがかわいくてたまらなかった。 理人さんが愛おしくてたまらなかった。 理人さんが、ほしくてたまらなかった。 「佐藤くん……?」 気がついたら、理人さんが訝しげに俺を覗き込んでいた。 「ごめんなさい、ちょっと感動してました」 「感動?」 「寒いの苦手、朝苦手、人混み苦手の理人さんが、そんなこと言ってくれるなんて」 誕生日様様だ、と続けると、理人さんの顔が赤くなる。 「このやろう……」 「でもほんと、気を遣わないでください」 「気を遣ってるわけじゃ……」 「俺は、誕生日にこうして好きな人と一緒にいられるだけですごく嬉しいです」 「っ」 「それに……」 耳元を掠めるように息を吐くと、理人さんの身体がピクンと跳ねた。 「俺がほしいものは、昨夜ちゃんと伝えましたよ?」 理人さんは、口の中で、う……と呟いてから、俺から目を背けた。

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