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4ー3:午後9時の涙 (1)
シン、と静まりかえったリビングに、かちゃかちゃと食器が擦れる音だけが響く。
空はすっかり闇の色に包まれ、西に浮かぶ細い三日月の存在を際立たせていた。
気温が一気に下がった今夜、暖房を効かせた室内は暖かく、窓にはうっすらと霞がかかっている。
ふよふよと漂うエアコンの風の上を、スパイスの良い香りが追いかけていた。
俺たちは、ふたりでソファに並んでカレーを食べていた。
向かい側にあるテレビの画面は黒いままで、俺と理人さんのシルエットをぼんやりと映している。
口に含んだカレーは少し冷めてしまってはいたけれど、甘すぎず辛すぎず美味しい。
それなのに、俺の右隣を覆う空気はどんよりと重かった。
理人さんの左手は、銀色のスプーンをだらりとぶらさげ、かき混ぜるばかりで全然減らないカレーをつついている。
そして反対側の手は、真っ白な包帯に覆われていた。
「なんか、ごめん」
「理人さん……?」
「佐藤くんの誕生日だから、ちゃんとしたかったのに」
手当されたばかりの右手をギュッと握りしめながら、理人さんが声を震わせる。
俺はスプーンをカレーの上に戻してから、理人さんの頭を撫でた。
「だめですよ。右手、そんなに握っちゃ」
「だって……」
「俺は、理人さんの気持ちが嬉しかったです」
額と額を合わせて覗き込むと、理人さんの瞳になみなみと涙が込み上げてくる。
俺は少し笑って、目尻に溜まる涙の粒をそっとキスで拭った。
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