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4ー3:午後9時の涙 (2)
今夜の理人さんは、張り切っていた。
「今日は俺が作るからな、ごはん!」
結局どこにも行かずに家でだらだらと時を過ごして日が落ちてきた頃、大手を振ってスーパーに出かけていった。
いろんな意味で不安になり一緒に行くと申し出たけれど、理人さんはそんな俺を振り切って、さらに絶対についてくるなと念まで押された。
はじめてのおつかいで子を見送る親というのはこんな気持ちなのだろうか、なんて思いつつドキドキしながら待っていると、理人さんは、牛肉と人参と玉ねぎとジャガイモとりんごとカレーのルーを抱えて帰ってきた。
「カレーの隠し味はりんごだぞ」
胸を張っていう理人さんはかわいかったし、仕事の電話と俺とのLINEくらいにしか使わないスマホを一生懸命操作してカレーのことを調べてくれたのかと思うと、すごく嬉しかった。
だからいざ料理を始めた理人さんが、絶対に手を出すな、と頑なだった時も、はいはい、なんて軽くあしらっただけだった。
最終的には、見られていると緊張するからどっかいけ、とキッチンを追い出され、まるで鶴の恩返しだな、なんて思いながら、ソファに座ってテレビを見ていた。
理人さんは、時々「これでいいんだよな?」とか「乱切りってなんだ?」とかぶつぶつ言いながら、キッチンの中を行ったり来たりしていた。
俺はそんな理人さんを、心の中で「かわいい……かわいすぎる……」と愛でながら、ニュース番組を見ていた。
クリスマスの話題ばっかりだ。
そういえば、理人さんはクリスマスどうするんだろうか。
たぶん家でツリーを出して飾ったりはしないんだろうな。
今年はクリスマスイブが祝日だ。
せっかくだから、デートに誘ってみようか。
どうせならイルミネーションが綺麗なところにーー
「いって……!」
甘い思考の波が、一気に引いていった。
「理人さん?」
キッチンを振り返ると、返事がない。
俺は慌てて、ソファから立ち上がった。
早歩きでキッチンカウンターの向こう側に周り、理人さんの姿を探す。
理人さんは、背中を丸めてうずくまっていた。
俺の気配に気付いたのか、ゆっくりとこちらを振り返る。
「理人さん?どうしーー」
最後まで、言えなかった。
「佐藤くん、いたい……」
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