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4ー3:午後9時の涙 (3)

「ギャー!なにやってんですか!」 慌てて駆け寄って、理人さんの右手を取る。 手の甲の親指の関節から手首にかけての皮が、ずるりと削り取られていた。 傷口からタラタラと薄い血があふれて、理人さんの手首を伝っている。 「にんじんの皮剥いてたら、いつの間にか俺の皮が……どうしよう?」 「なんでそんなにのんびりしてるんですか!止血、止血しないと!」 「いっ……!」 とりあえず目に入った布巾をひっつかみ、傷口を覆って上から押さえた。 「うわダメだ、染みてくる!なにか、ガーゼとか、救急セットとか!」 「ない……」 「ですよね!あっ、フロント!」 「フロント……?」 「フロントなら救急セットがあるかも!行きましょう!」 俺はどこか呆然としたままの理人さんの身体を立たせて、引きずるように玄関に向かった。 されるがままの理人さんが、遠ざかっていくキッチンを切なそうに振り返る。 「あ、カレー……」 「そんなの後でいいですから!」 俺はランニングシューズにつま先だけ突っ込み、理人さんは季節外れのサンダルを引っ掛けて、早足でエレベーターに向かう。 その間も、布巾が吸いきれなかった血が理人さんの手首を伝っていた。 「理人さん、手、上に挙げててください」 「上?」 「心臓より高く挙げると血が止まりやすいって聞いたことがあります」 「……うん」 静かに高度を下げていくエレベーターの中で、理人さんが左手で自分の右肘を抱える。 そして血まみれになった右手を額に当てて、俯いた。 「……ごめん」 「え……?」 ポン、とエレベーターが鳴いた。

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