173 / 492
4ー4:午後10時のハッピーバースデー (1)
窓に張り付いた結露が、外からは月明かりを、内からは電気の光を浴びて、キラキラと輝いている。
エアコンが届かない空間は冷えていたけれど、火照った身体にはちょうどよかった。
俺は、端っこに浅く座り窓の外を見つめる理人さんの隣に、ゆっくりと腰を下ろした。
ギシ、とベッドが軋む。
理人さんの視線が、ぼんやりと俺の姿を捕らえた。
すっかり腫れてしまった瞼が、面倒そうに瞬きする。
「手、大丈夫ですか?」
「……ん」
真新しい白に包まれた右手を取り、そっと口付ける。
理人さんの喉が、コクリと鳴った。
包帯に覆われていない指先に、唇を寄せる。
音をさせながら口付けを繰り返していると、愛おしさが募った。
俺のために傷ついた右手。
「さ、佐藤くん、も、いいから……」
「嫌でした?」
「嫌、じゃないけど……んっ」
触れるだけのキスを落とすと、理人さんの唇が離れた距離を追いかけてきた。
「こっちがいい?」
「う……い、言わす、なよ……」
「ごめんなさい。かわいくて、つい」
途端に真っ赤に染まる頬を、手の甲で撫でる。
色素の薄い髪を指に絡めて、目尻をなぞった。
うっすらと残った涙の跡が、俺の心を締め付けてくる。
理人さんの左手が、俺の右手に触れた。
目を細めて、頬ずりするように俺の手を包み込む。
手のひらに柔らかい唇が当たり、ちゅ、っと吸われる。
手首に歯が当たると、背中がゾクリと泡立った。
「あっ!……んっ……ふっ……」
手を引いて離れていた距離を一気に奪い取り、キスをした。
おずおずと差し出された舌を吸い、自分のそれを絡める。
離れようとする身体を髪に手を入れて引きとめ、腕の中に閉じ込めた。
「ふぁっ……んんっ……はっ、ん……」
呼吸のリズムが合わないままの口付けに、理人さんの息が上がってくる。
それでも構わずに、理人さんの口内を侵した。
舌を吸い、歯列をなぞり、唇を貪りあった。
ともだちにシェアしよう!