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4ー4:午後10時のハッピーバースデー (5)

もう、限界だ。 「はぁっ……ご、めん、俺だけ先にっ……」 「理人さん」 「んっ……?」 「抱いても、いいですか」 乱れていた理人さんの呼吸が、ぴたりと止まった。 ふたつの黒い瞳が、じっと俺を見上げてくる。 俺はその濡れた瞳を、ただじっと見返した まるで鏡のように、俺の姿を輪郭まではっきりと描き出している。 すぐにでも爆発しそうな野生的な熱が、そこに映っていた。 言葉なんかなくたって、理人さんには伝わっているはずだ。 俺の望みは、ただひとつ。 理人さんがほしい。 ふと、理人さんが左腕を持ち上げた。 長い指が滑らかな軌跡を描きながら、俺に近づいてくる。 そして、下唇にトン、と当たった。 「理人さん……?」 「抱い、て」 「えっ」 「俺を――抱いて」 目の裏が、炎に焼かれたかのようにカッと熱くなる。 考える前に身体が動き、理人さんの上に覆いかぶさり唇を貪っていた。 「んっ……ふっ……」 理人さんの鼻から漏れる甘い音が、頬を震わせ、耳に流れていく。 それが鼓膜までたどり着くと、全身がゾクゾクした。 俺は、理人さんのジーンズを、下着と一緒に一気に抜き取った。 「っ!」 理人さんが顔を沸騰させ、引き締まった太ももをこすり合わせながら言う。 「佐藤くんも、脱げよ」 やばい。 また、煽られる。 「ちょっとだけ待っててください。先に鞄からローション取って……」 「あっ、待っ……ひ、引き出し!」 「えっ?」 「二番目の、引き出し……」 曖昧に揺れる理人さんの視線を辿ると、目覚まし時計が並んだサイドボードにたどり着いた。 身体を伸ばして、二番目の引き出しを開ける。 そこには、小さなボトルと、銀色のフィルムに包まれた正方形の何かがひとつずつ入っていた。 ボトルを持ち上げると、中の液体がゆっくりと傾く。 「これ、って」 もしかして、理人さんが今朝探してたのって……これ? 胸の下にいる理人さんを覗き込むと、すぐに目をそらされた。 「い、痛くしたら……ぶん殴るから」

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