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4ー4:午後10時のハッピーバースデー (8)

「はーっ……はーっ……」 俺の身体を力技で組み敷いた理人さんが、全身を使って荒い呼吸を繰り返す。 股がられた腹の上に、勃ちあがったままのそれを伝ってトロトロの雫が滴り落ちてきた。 ああ、もったいない。 理人さんのいやらしい汁、俺が舐め取ってやりたい……じゃなくて! 「ま、ままま、理人さん?」 「はーっ……佐藤くん」 「はい……?」 「いい加減イかせろこのやろうっ!」 「え?へ……?えぇっ!?」 「あとちょっとでイくってとこで、何度も何度も絶妙なタイミングで指止めやがって……!」 理人さんが、わなわなと肩を震わせた。 そして、その鋭い眼光で俺を睨む。 まるで、目の前のエサを口をつける寸前で横取りされた猫のようだ。 理人さんの全身の毛が逆立って見えるのは気のせいじゃない。 さっきまでのアハンウフンな感じも、すっかり消えていた。 あ、もしかして。 『も、もう……っ』とか、『無理ぃ……っ』とかは、そういうことだったのか! 「ご、ごめんなさい!で、でも、十分解した方がいいって書いてあったから!」 「は?書いて……?」 「お、俺その、男同士って初めてなんで、いざって時に恥ずかしいところ見せられないと思って、ネットで調べて……」 「なにを検索してんだ、なにを!」 「え、普通に『男同士 セックス やり方』とか……?」 「お前なあっ……!」 理人さんが、がっくりとうな垂れた。 元気すぎるくらい元気に天井を向いていたそれも、心なしかしょんぼりしてしまった気がする。 怒らせた? 呆れられた? どちらにしても、俺はやらかしてしまったらしい。 なんてことだ。 ものすごくいい雰囲気だったのに。 「あー……くそっ」 ふいに、理人さんが俺の上にパタリと突っ伏してきた。 じっとりと汗ばんだ肌が、直接俺に体温を分け与えてくる。 俺の心臓が、また速い鼓動を打ち始めた。 「んっ……!」 さらに理人さんのと俺のが擦り合わさって、 思わず甘い声を漏らしてしまった。 しまった。 そんな空気じゃなかったのに。 理人さんが、ハッとしたように素早く上半身を起こした。 俺のそれを見下ろして、自分のを見て、また俺の方に視線を戻す。 その間に、キョトンとどこか間抜けだったその表情が、少しずつ歪んでいった。 うわ。 なんだか嫌な予感がする。 だって理人さんのこの表情(かお)には、激しく見覚えがある。 初めて俺がここにきた夜に見せられた表情(かお)だ。 この人はあの時、この狩人(ハンター)の瞳で俺を捕らえて、そのまま俺を咥えた。 そこから、すべてが始まったんだ。 ああ。 やばい。 ものすごく嫌な予感がする。 「あ、あの、理人さん?」 理人さんが、口の端を上げてニヤリと笑った。 「決めた。俺がやる」

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