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閑話:午前10時のアクアリウム (1)

今日は、佐藤くんとデートだ。 どうしよう。 緊張してきた。 休日の混み合った地下鉄に揺られながら、すっかり乾いてしまった喉をペットボトルのお茶で潤す。 ホットで買ったはずのお茶は、すっかり冷えていた。 気分転換に景色を見たくても、窓の外では地下の壁がすごい速さで流れているだけだ。 俺は仕方なく、もう一度ペットボトルの蓋を開けた。 ふた口目をゆっくりと味わいキャップを閉めると、ポケットのスマートフォンがブルっと震えた。 『5番出口の階段上ったところで待ってます』 佐藤くんからのLIMEだ。 慌てて時間を確認すると、待ち合わせの時間まではあと20分もあった。 早いな、もう着いたのか。 俺もそこそこ余裕を持って出てきたと思ったのに。 待たせてごめん、あと10分で着く。 そんな文面を作ろうとしていたら、画面が勝手に少し上に流れて、新しいメッセージが表示された。 『俺が勝手に早く来ただけなんで、焦らずゆっくり転ばず来てくださいね』 思わず、鼻で笑ってしまった。 転ばずってなんだよ、俺は子供か。 そう返そうとしていたら、また画面が動いた。 相変わらず早い。 最近ようやくLIMEデビューを果たした俺としては、もうちょっと返信するのを待ってほしい。 なんとなくおもしろくないまま画面を確認すると、さっき送られてきたのはメッセージではなくスタンプだった。 目がハートになったウサギが、投げキッスしている。 「なんだそれ?」 俺はまた小さく笑ってから、そっとスマホをポケットに戻した。

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