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閑話:午前10時のアクアリウム (10)

あー……天井がぐるぐる回る。 「大丈夫ですか?」 「だめ。完全に逆上せた……」 ベッドに仰向けになった俺を、佐藤くんが心配そうに覗き込んでくる。 「あのあと2回もやるなんて聞いてない……」 「理人さんが、もぉだめしてぇっ……とか言うから」 「俺のせいかよ」 それに俺はそんな言い方してない……と思う。 「抜かずに3回とか、佐藤くんて時々ほんと変態すぎやしないか」 「あ、ひどい」 「おしり痛いし、3回とも中に出すし」 「ちゃんと責任持って綺麗にしたじゃないですか」 肌蹴たままだったパジャマのボタンを上から順番に留めてくれながら、佐藤くんが柔らかく苦笑する。 「お腹壊すの嫌だから掻き出して、って強請ってきたのは理人さんでしょう?」 「違う!俺は出すから出てけって言ったんだ!それを佐藤くんがいきなりっ……」 「だって理人さんなかなか指入れないし、早くしないと出てこなくなっちゃいそうだったから」 「じ、自分で指突っ込むんだから心の準備がいるだろ!」 「えっ、理人さん、ひとりでしないんですか?」 「そ、そりゃする、けど……でも別に、指入れたりなんか、しない」 「絶対突っ込んでると思ってた……」 「俺はそういうことには淡白な方なんだよ」 「もうしてぇっ、とか言っちゃうのに?」 「……だまれ」 佐藤くんが、喉の奥でくつくつと笑う。 あームカつく! そうだよ。 正確には、淡白な方『だった』んだよ。 だから2年間そういう相手がいなくなって、全然平気だった。 それなのに、佐藤くんの前ではやたらムラムラするし、ひとりでする回数も増えたし、ティッシュの減りが早くなったし、挙げ句の果てに、あんな風に自分からほしいなんて口走ってしまうなんて。 あー……くそ。 くそくそくそ! 今だって、うしろが疼いてしょうがない! 「理人さん?」 「……のど、かわいた」 「お水、ありますよ」 「のめない。のませて」 「口移しで?」 「……ちがう」 「冗談です。だから睨まないで」 佐藤くんが、爽やかに笑って俺の上半身を起こしてくれる。 高度が高くなると、頭の中がふわりと浮いた。 ぎゅっと目を瞑って、めまいが治まるのを待つ。 佐藤くんの大きな手が、ゆっくりと背中をさすってくれる。 うっすらとまぶたを押し上げると、視界の端に俺と同じ柄のパジャマが見えた。 「……佐藤くん」 「はい?」 「やっぱり口移し、して」 あー……ほら、まただ。 こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。 お揃いの、パジャマ。 たったそれだけで、俺の中で『好き』が溢れて止まらなくなる。 「甘えてもらえるのは嬉しいですけど、どうしたんですか?」 本当に、どうしてしまったんだろう。 自分が自分じゃなくなってしまったようで、怖い。 怖くて怖くて、逃げ出したくなる。 やめてしまいたくなる。 佐藤くんを突き放してしまいたくなる。 佐藤くんと離れて、元の自分に戻りたくなる。 こんな気持ちを知らない自分に戻って、安心したくなる。 でも。 「……うるさい。誰のせいだよ」 「俺、かな?」 佐藤くんが、あまりに幸せそうに笑うから。 「なら、ちゃんと責任……取れよ」 「喜んで」 fin

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