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5ー1:午後0時の乱 (2)

「温めますか?」 「お願いします」 今日も俺は、理人さんのカルボナーラを温める。 最近は人の波が落ち着いた頃に来てくれるようになったから、理人さんをじっくり堪能できるようになった。 カウンター越しに向き合っていると時折宮下さんの視線を感じて照れくさくもあったけれど、ひと言でもふた言でも理人さんと言葉を交わせることが、ただただ嬉しかった。 「……なに?」 「えっ?」 「ニヤニヤしてる」 理人さんが、訝しげに俺を見る。 「理人さんがいるなあ、と思ったら嬉しくて」 「なんだそれ?毎日会ってるだろ」 「そうなんですけど」 理人さんが、僅かに眉を寄せた。 わからないかなあ、この気持ち。 俺は理人さんになら四六時中会っていられるし、もしできるなら、本当にずっと会っていたい。 だからこうして実際に会えると嬉しいし、むしろ嬉しすぎるから、顔がニヤけてしまう。 そういう単純なことなんだけれど。 「……あのさ」 「はい?」 「今日、佐藤くん家行っていい?」 「えっ」 「いつも俺ん家だろ。別にそれはいいんだけど、佐藤くん家も見てみたい」 「えっ、ええっ!?」 「だめ?」 「まさか!もちろん大歓迎なんですけど……」 「けど、なに?」 「1時間ください」 「……なんで?」 「や、その、別にやましいものがあるとかじゃなくてっ……散らかってるの恥ずかしいんで、純粋に片付けたい、ってだけなんですけど……」 理人さんは一瞬ポカンと俺を見つめてから、クスリと笑った。 「いいよ。俺も今日はどうせ残業だから」 「忙しいんですか?」 「うん。体調崩して休んでる人が多いからな」 「じゃあ、現地集合にしてもいいですか?」 「ん」 理人さんが、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。 「住所送って」 「はい」 俺もスマホを取り出して素早く操作すると、すぐに理人さんの手の中がブルっと震えた。 蕾が花開いたかのように、理人さんの表情が輝く。 「あ、来た」 「それで分かりますか?」 「うん。8時でもいい?」 「はい」 「よし。これで午後も頑張れそ――」 「理人?」

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