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5ー1:午後0時の乱 (9)
「んっ……ふぅっ……ん」
氷のように冷たい理人さんの唇が、俺の唇から熱を奪っていく。
ねっとりと舌を絡め合う間も、理人さんの身体はガタガタ震えていた。
部屋に入ってすぐに暖房のスイッチを入れたけれど、まだウォーミングアップ中でウンともスンとも言わない。
背中に回された手が、コートを握りしめてぶるぶる振動した。
そっと唇を離して、理人さんの身体を抱きしめる。
かすかな煙草のにおいが鼻腔をくすぐった。
心の奥が鈍く疼く。
あいつの香り、だろうか。
「先にシャワー浴びてあったまりましょうか」
「……やだ。逆上せる」
「逆上せるようなことするならね」
「……っ」
「もしかして、そういうの期待して俺を待ってた?」
「……」
「理人さん?」
完全に沈黙してしまった腕の中を覗き込むと、理人さんは不機嫌そうに唇を尖らせていた。
「今日の佐藤くん、なんか意地悪だ……」
そう言いながら、俺の胸元に頬を擦り寄せてくる。
意地悪?
そうか。
俺、理人さんに意地悪してるのか。
理人さんが家の前で俺を待っていてくれた。
会社の飲み会を切り上げて、俺に会いに来てくれた。
いつもなら、それだけで嬉しくて嬉しくてしょうがなくて舞い上がっていた。
でも、今夜は。
「ごめんなさい。今日は俺、余裕ないです」
あいつは煙草を吸わないのかもしれない。
それでも、理人さんの髪にまとわりつくヤニのにおいを、今すぐ洗い流してしまいたかった。
「理人さんを裸にして綺麗に洗って、いろんなところ舐め回して思いっきり気持ちよくさせて、理人さんのナカを俺でいっぱいにして、理人さんは俺のものだって、そう、実感したい」
「っ」
「こんな俺は嫌いですか?」
「……」
「理人さん……?」
「言わせる、のかよ」
「えっ」
「俺は佐藤くんなら、どんなことされたって……」
――好き。
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