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5-2:午後7時の別離 (3)
たとえ元恋人だとしても、おかしいだろ。
それに、理人さんはなんで平気なんだ。
こんな、会社の人がいつ通るか分からない場所でイチャイチャされてなんで気にしないんだ。
見てるのに。
俺がここで見てるのに、なんとも思わないのか……?
「お前さ、明後日の金曜、空けとけよ」
「……なんで?」
「現場回り、付き合え」
「は……?」
「今度新しい経理システム入れるじゃん?その説明に三枝 と俺で事務所回ることになった」
「あー、それは聞いてる」
「だからお前も一緒に来い」
「いやだから、なんでだよ。三枝も一緒なら俺は必要ないだろ?」
「新システム作ったのは理人じゃん」
「作ってない。俺はただ実際に使う側としていろいろ提言しただけ……」
「だからさ、現場で質問が出た時一番具体的に答えられる人間は理人ってことだろ」
「あー……」
「後で確認しますーだの、メールで回答しますーだの、俺はそういう二度手間ってのが大嫌いなの!」
「いやだから、明後日はほんとに無理なんだって。監査前の打ち合わせも入ってるし、そもそも社長案件資料の締め切りが……みょっ」
理人さんの唇が、むぎゅ、と飛び出た。
「ふぁふぃふんふぁふぉ!」
「調整しろ」
「だ、だからそんな簡単なレベルじゃ……」
「俺のためならできるだろ?」
「な、んだ、それ」
本当に……なんだそれ?
「んじゃな。行程はあとで伝えるから」
「決定事項かよ……」
理人さんが頬をさすりながら、颯爽と去っていく木瀬の背中を涙目で見送る。
「出張、ですか?」
「あー……うん、そうなるかも」
深いため息を吐きながら、理人さんが表情を崩した。
その淡い笑顔があまりに穏やかで、逆に俺の心をひどく騒つかせる。
理人さんの言葉は、本当だった。
理人さんはあの男――木瀬を、尊敬している。
仕事の話をする時の理人さんは真剣そのものだ。
きっと女性社員たちは、彼のそんな姿を見て惚れるんだろう。
でも俺は気づいてしまった。
その強い瞳が、木瀬の前ではまたいっそう輝いていることに。
――悪いけど、理人は返してもらうよ。
あの時は、宣戦布告されたと思った。
勝負を挑まれた、と。
でも違った。
こんなの、勝負でもなんでもない。
八百長?
いや、それよりも酷い。
最初から勝敗の分かりきったゲーム。
ただの遊び。
だって。
理人さんとあの男の間に、俺の入れる隙間は1ミリも……ない。
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