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5-2:午後7時の別離 (4)
俺はいったい、どうしてしまったんだろう。
嫉妬しているんだと思う。
でもそれだけじゃ説明できないなにかが、心の中を渦巻いている。
あれから二日間、一度も理人さんと顔を合わせていない。
これまでも、会えない夜は何度かあった。
理由のほとんどが理人さんの残業だったけれど、こんなに不安になったことは一度もなかった。
時折送られてくる理人さんのLIMEは、できない、会えない、ごめん、そんな言葉ばかりだ。
今までは、俺のために慣れないLIMEを使ってくれたというだけで嬉しいと思えていたのに。
満たされていたのに。
心の疼きが――治まらない。
一昨日の水曜日、理人さんは昼飯を買いに来なかった。
出張に出た日と休みを取った日を除いて、月水金に当てはまる日にカルボナーラを買いに来ないのは初めてだった。
この四年間一度も揺るがなかったルーティーンが、あっさりと崩された。
あの男の、木瀬航生のひと言で。
こんなに近くにいるのに、俺は、一昨日の朝も、昼も、夜も、昨日の朝も、昼も、夜も、理人さんに会えなかった。
どんなに会いに行きたくても、俺は会いに行けない。
電子ロックという壁に阻まれ、社外秘という壁に阻まれ、俺は理人さんのオフィスに足を踏み入れることはできない。
昼間の理人さんにとって俺は、『部外者』だ。
木瀬は、毎日理人さんと会っている。
理人さんと、対等の立場で。
木瀬がこのコンビニにやって来るのは、理人さんがいる時だけだ。
理人さんがいない時は、一緒にいる人が立ち寄っても、自分は中に入らずにさっさと戻っていくか、外で待っているかのどちらかだ。
徹底的に俺を避けて……いや、きっと、木瀬は最初から俺のことなんて眼中になかったんだろう。
――悪いけど、理人は返してもらうよ。
木瀬にとってあの言葉は、宣戦布告でもなんでもなく、ただの宣言だったに違いない。
再び現れた。
それだけで木瀬は、理人さんを取り戻してしまったのだから。
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