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5-2:午後7時の別離 (6)
午後6時半。
俺は、理人さんのマンションの前にひとりで立っていた。
5時を回ったところでスマホが震え、理人さんから立て続けに2通のLIMEが届いた。
『会社戻らずに直帰することになった』
『家で待ってる』
待ってる。
その言葉に、荒んでいた俺の心が少しだけ輪郭を取り戻す。
『今夜はなに食べたいですか?』
『アイス』
すぐに返ってきた三文字に、頬の筋肉が緩んだ。
了解の返事と一緒に投げキッスのスタンプを送って、長く深い息を吐く。
肺の空気が全部出て行くと、身体が軽くなったような気がした。
心の中で蠢いていたドロドロしたものが、吐息と一緒に出て行ってくれたのかもしれない。
バイトが終わったら、大きめカップのバニラアイスのふたつ買っていこう。
ソファで並んで食べながら、理人さんと話をしよう。
ふたりきりなら、ちゃんと話し合える。
目を見て話せば、きっと通じ合える。
そう、思っていたのに。
なんで。
なんで、あいつがここに――?
マンションのロビーでコンシェルジュの田崎さんと親しげに言葉を交わしているのは、確かにあの男――木瀬航生だった。
理人さんと同じ紺色の作業着に身を包んだまま、左手でなにかを弄びながら右手は黒縁の眼鏡を押し上げる。
そのなにかがひょいっと空中に投げられ、俺は、息を呑んだ。
翻ったのは、トフィのキーホルダー。
――理人のやつ、合鍵くれたんだよ。
木瀬の唇が、そんな風に動いた気がした。
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