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5-2:午後7時の別離 (8)

「佐藤、くん?」 俺を見上げる理人さんの瞳が、歪む。 キッチンのカウンターに押し付けた理人さんの手首が、解放を求めて僅かに動いた。 大して力も込めていないのに、理人さんはその拘束から抜け出すことができない。 俺の指は、いとも簡単に理人さんの手首を一周してしまった。 理人さんの手首は、こんなに細かっただろうか。 覚えていない。 俺は理人さんの両手首を左手ひとつでまとめあげて、その細い腰をぐるりと回転させた。 「な、なにすんだ――」 作業着のズボンをズルリと引き下げると、理人さんの背中が強張った。 頭の奥で、小さな炎が灯る。 見慣れない作業着姿の理人さんが、俺に向かって尻を突き出している。 それだけで、股間が熱くなる。 「く、ぅ……っ」 乾いたそこは、俺の指を頑なに追い出そうとする。 構わずに押し込むと、理人さんが苦痛にまみれた声を漏らした。 後ろからでも容易に見て取れるくらい顔をしかめて、俺の指が与える不快感に耐えている。 頭の中は混乱しているようで、恐ろしく冷静だった。 冷静で、でも全然繋がっていない。 今見ている光景を、脳が正しく認識してくれない。 俺、こんな性癖だったか? 好きな人の苦しむ顔を見て、興奮するなんて。 こんな、ひどい人間だったか……? 「んあっ……!」 人差し指を一気に引き抜き、ジジ、とスボンのジッパーを下げていく。 最後まで下ろすと、そそり勃った欲望が飛び出してきた。 勢いよく俺を振り返った理人さんの顔から、サッと血の気が引いた。 「や、やだ!佐藤くん、やめ――」 一滴の潤いもない蕾に、力だけで先端を埋め込む。 理人さんの手首が、俺の左手の中でぶるぶると震えた。 「か、はっ、いっ、いたい……っ」 異物を押し返そうと健気なそこが、俺の侵入を懸命に拒絶する。 まるで、俺のものになってくれない理人さんの心を投影しているようだ。 小さかった頭の中の炎が、大きくなるのが分かった。 「いたい、さとうくん、いたいぃっ……!」 おかしい。 痛みに染まった理人さんの声は確かに耳に届いているのに、腰の動きが止められない。 渇いた内壁が、俺をギチギチと強すぎるくらいに締め付めてくる。 全然気持ちよくないのに、止められない。 「ふう……全部入りました」 「あっ、くっ、ぬ、ぬい、てっ……」 「嫌です」 「んんんぅっ!動かなっ……はっ、あっ、あうっ、ああっ!」 腰を少し前後に動かしただけで、理人さんの全身の筋肉が収縮して小刻みに振動する。 長い脚の間にあるそれは、情けなく垂れ下がっていた。 「ふぁっ……!」 萎えたペニスにそっと触れると、ピクンと痙攣した。 上下に動かすと、トロ、とほんの少し甘い雫を垂らす。 理人さんの声に、次第に淫らな吐息が混じってきた。 「痛い?嘘でしょ。こんなになってるくせに」 「あっ、やっ、さわる、な!」 「あの人の下でも、こうやって悦んでたんだ?」 「あの、人……?」 「こっち向かないでください」 だめだ。 言っちゃだめだ。 この言葉だけは。 そう、わかっているのに。 奥の方で、小さく小さく、誰かが囁く。 もうひとりの俺が、囁く。 囚えてしまえ。 あの男が、そうしたように。 この人を傷つけて、泣かせてしまえ。 二度と忘れられないように。 二度とほかの誰をも愛せないように。 ……だめだ。 だめだだめだだめだだめだ。 だめ、なのに。 永遠に、あなたの記憶に残れるなら。 俺は―― 「あなたの感じてる顔なんか見たくない」

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