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5-3:午後10時の解氷 (2)

振り返ると、理人さんが俺を見ていた。 「理人さん……?」 「佐藤く……っ」 一歩、二歩、こちらに近づいたところで、理人さんの身体が左に傾く。 「理人!」 支えたのは、木瀬の腕だった。 「げ、あっちーな。やっぱ熱上がってんじゃん」 「はぁっ……う……」 「気持ち悪いか?解熱剤は?」 「飲んで、ない……」 「なんだ、座薬じゃねえの?」 「は……?」 「怖くて自分じゃ挿れられねえ、っていつもみたいに俺に泣きついてほしかったのに」 「っ」 「これ、買ってきたからさ。お前熱出した時はいつもこれ欲しがるだろ?飲めば安心すると思……」 「佐藤くんの前で昔の話するな!」 ドン、と鈍い音がして、木瀬さんの身体が仰け反る。 「航生おまえ、佐藤くんになに言ったんだよ!」 「理人……?」 「俺とお前が付き合ってたのは、もう昔の話だろ!それにあの夜俺はちゃんとっ……」 「昔じゃねえよ」 「……」 「俺にとっては全然昔なんかじゃない」 肩で息をする理人さんを、木瀬さんがじっと見つめる。 鋭い視線で木瀬さんを睨んでいた理人さんの身体が、ふいに前後に動いた。 伸ばされた木瀬の手が、パシン、と振り払われる。 「ふざけんな!捨てたのは先輩だろ!?」 「まさ……」 「結婚して子供作って、人並みの幸せってやつで両親を安心させたいから俺とは別れる。男の俺と付き合ってたって未来なんかない。そう言って先輩が俺のこと捨てたんだろ!」 「理人」 「それなのに今さらノコノコ俺の前に現れて、なにもなかったみたいに笑って……なにがしたいんだよ!」 「理人!」 「俺がこの2年間、どんな思いでいたかも知らないくせに!」 「理人、落ち着け!」 「俺には!俺には先輩しかいなかったの、に――…」 その瞬間、理人さんの身体が、グラリ、と揺れた。 「理人さん!」 倒れ込んできた身体を咄嗟に受け止めて、心臓が止まりそうになった。 「はぁっ……はぁっ……」 熱い。 理人さんの身体が、燃えている。

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