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5-3:午後10時の解氷 (5)

突然、木瀬さんがカップに残っていたコーヒーを一気に啜り上げ、すくりと立ち上がった。 目の前のテーブルの上ですっかり固まってしまったカルボナーラを見下ろし、指を差す。 「これ」 「えっ?」 「ちゃんと食って、味、覚えろよ」 「え?それ、って……」 「コーヒー、ごちそうさま」 木瀬さんは、そのまま俺の前を横切り去っていった。 パタン、と扉が閉じる音が、遠くから聞こえる。 静かだった空間からさらに音が無くなり、耳の奥がキン、と張り詰めた。 テーブルの上には、食べかけのカルボナーラが2皿。 俺はノロノロと歩き、柔らかいカーペットの上にストンと座った。 ガチガチにくっついたパスタをフォークで突つき、解れた小さな塊を口に運ぶ。 歯で押しつぶすと、濃厚な生クリームの香りが広がった。 「……ちくしょう、美味い」 鼻の奥が、ツン、と酸っぱくなる。 「まさと、さん」 理人さん。 理人さん理人さん理人さん。 ごめんなさい。 理人さんはずっと、俺だけを見てくれていたのに。 俺が勝手に、焦って。 不安になって。 嫉妬して。 怒って。 ひどいこと、した。 傷つけた。 言っちゃいけないことを。 やっちゃいけないことを。 いっぱいした。 でも。 もし。 もしも、許されるなら。 許して、もらえるなら。 理人さんの声が聞きたい。 もう一度、理人さんに伝えたい。 俺の気持ちを。 理人さん――

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