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5-3:午後10時の解氷 (6)
ふわり。
「……ん」
背中が柔らかいものに包まれ、まどろんでいた意識がふと浮上する。
重い瞼を僅かに押し上げると、見覚えのあるシルエットが俺を覗き込んでいた。
「あ、ごめん。起こしたか」
「理人さん……?」
「こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ……って、俺が言うのもアレだけど」
ガバッと顔を起こすと、机にくっついていた頬がベリッと剥がれてジンジンした。
背中から毛布がずり落ちる。
理人さんが、身体を屈めてゆっくりとそれを拾い上げた。
「具合、どうですか……?」
「寝たし汗かいたからだいぶいい」
「あ、服……」
「うん、着替えた」
はにかんだように目尻を下げ、長い指がパジャマの胸元を引っ張る。
そしてテーブルの上に残されたままのカルボナーラを見やり、視線を彷徨わせた。
「航生は?」
「あ……ずいぶん前に帰りました」
「……ふぅん」
理人さんの唇が、への字に曲がった。
なにを思っているんだろう。
わからない。
理人さんの気持ちが知りたくて、俺は腕を伸ばして理人さんの手を握った。
「佐藤くん……?」
まだほんのり温かいけれど、熱はだいぶ下がったようだ。
ホッと息を吐いて見上げると、理人さんがコクリと喉を鳴らした。
「なんて顔、してんだよ」
長く繊細な指が、俺の手のひらに絡みついた。
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