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閑話:午後7時のジェラシー (2)
「来てしまった……」
20階建ての無機質なビルを見上げて、俺は絶望的なため息を吐いた。
なにが悲しくて休日にまで社ビルを見上げなきゃいけないんだ。
そんな風に心の中で悪態を吐いてから、それがものすごく生産性のないことだと気づく。
なぜなら、ここに来ると決めたのが他でもない俺自身だからだ。
なんて言おう。
迎えに来た。
早く会いたかった。
待ちきれなかった。
どれをどんな風に言っても、返ってくる言葉は決まっている気がする。
――夜には会えるのに?
きっと、ほっぺたをたるったるにさせながら笑うんだろう。
やっぱり、帰ろう。
帰って、家でおとなしく待とう。
そう思って踵を返そうとした時、未練がましい視線がコンビニの中をとらえ、レジカウンターの中にいた小柄な女性を目が合った。
彼女は確か、佐藤くんの先輩。
名前を思い出そうとしている間に窓越しに軽く会釈され、反射的に頭を下げた。
しまった。
こうなると、このまま帰るのはまるで逃げるみたいで気まずい。
きっと彼女の口から俺が来ていることはすぐに佐藤くんに伝わってしまう。
俺は一度肺の空気を空にしてから、重い扉を押し開けた。
「いらっしゃいませー」
間延びした挨拶に迎えられ、ドキドキしながら足を踏み入れる。
もう一度深く息を吐き出して、思い切ってレジカウンターを見た。
見て、でもそこに、佐藤くんの姿はなかった。
あれ……いない?
壁にかかっている時計を確認すると、佐藤くんの勤務時間はまだあと10分残っているはずだ。
もしかして、土曜日だから客足が少なくて早めに上がったんだろうか?
LIMEが来ているかもしれない、とポケットからスマホを取り出すと、ロックを解除する前に後ろから高い声がした。
「あの……神崎、さん?」
「はい?」
振り返ると、斜め下から佐藤くんの先輩が俺を見上げていた。
なぜかゴクリと喉を鳴らしてから、躊躇いがちに口を開く。
「佐藤くん、ですよね?」
「あ……はい」
「今日は休みですよ」
「えっ?」
「佐藤くん、シフト入れてるの平日だけで、土日はいつもお休みです」
「あ、そう、ですか」
戸惑った様子の彼女に短くお礼を伝えてから、俺はコンビニを出た。
頬を撫でていく冷えた空気を感じながら、ところどころ亀裂の入った歩道を見下ろす。
――明日、バイトなんです。
昨夜、佐藤くんは確かにそう言った
そう言って、うちに泊まらずに帰っていった。
聞き間違いではないと思う。
だとしたら。
いったい、どういうことだ……?
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