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閑話:午後7時のジェラシー (3)

「来てしまった……」 俺は、今日二度目の絶望的なため息を吐いた。 閑静な住宅街にひっそりと佇むアパートを見上げる。 モスグリーンの壁が、ところどころ剥げていた。 日が落ちるのがだんだん遅くなってきたとは言え、夕飯時の今、街灯が自然に灯るくらいには空の色が濃い。 それでも、三階の真ん中の部屋に明かりは見えなかった。 地下鉄に乗る前に送ったLIMEに返信はないし、既読すらまだついていない。 今からそっち行く。 これだけじゃ無愛想だっただろうか。 今、どこにいる? ……違う。 そうじゃない。 人差し指を動かし、本当に知ってほしい気持ちを文字にする。 あいたい。 送信ボタンを押しかけて、でも、やめた。 ――佐藤くん、シフト入れてるの平日だけで、土日はいつもお休みです。 高い声で紡がれた言葉が、頭の中に蘇る。 これまでも、次の日仕事で朝早いから、と佐藤くんがうちに泊まらなかったことは何度かあった。 それは決まって週末で、てっきりいつものコンビニの仕事だと思っていたから詳しく聞いたことなんてなかった。 でもよく考えたら、土日の方が平日よりも格段に客足の少ないはずのあの場所で、すでに週五日みっちり働いている佐藤くんが休日まで出勤するなんておかしい。 もしかしたら、週末は別のバイトをしているんだろうか。 でも、それならなんで言ってくれないんだろう? まさか、バイトはなにかの口実? なにかを誤魔化すための、嘘? だとしたら、その理由は……? いや、佐藤くんが俺に嘘を吐くはずなんてない。 そう、思うのに。 なぜだかものすごく、不安――だった。

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