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閑話:午後7時のジェラシー (5)
「理人さん……?」
ゆっくりと開いた扉の向こうには、佐藤くんの驚いた顔。
手の中には、今届いたばかりのメッセージ。
『ごめんなさい!今LIME見ました』
『思ったよりバイトが長引いて』
バイト?
これの?
なにが?
どこが?
「もしかして、迎えに来てくれたんですか?」
「さ、触んな!」
「理人さん……?」
「バイト、って言ったくせに」
「えっ?」
「コンビニ、行ったのにいなかった」
「コンビニ……?」
「いなかった!」
なにがバイトだよ。
なにが朝早いからだよ。
全部、嘘だったくせに。
嘘だったくせに!
「うそつき!」
佐藤くんが、息を呑む気配がした。
やっぱり。
バイトなんて、嘘だったんだ。
「……っ」
高ぶった感情が、どんどん目から溢れてくる。
かっこ悪い。
今すぐ止めたい。
でも、止まらない。
わかってたんだ。
佐藤くんは、女の子が好きだった。
だからいずれは俺のことなんて、どうでもよくなる。
わかってた。
それでも。
嘘は、ついて欲しくなかった。
「うそつきうそつきうそつき!」
「え、え?理人さん?ちょっと落ち着いてくださ……」
「かわいい女の子と遊びたかったんなら、バイトなんて嘘つかなくてもそう言えばよかっただろっ!」
「だから理人さん!俺の話を……」
「俺のことが嫌になったんなら正直にそう言えばよかっ――」
バタンッ。
突然、俺の鼻先を突風が吹き抜けた。
こめかみをタラリと冷たい汗が伝う。
あ、危なかった……!
あと3ミリずれてたら俺の鼻がなくなってたところだった!
「なあにぃ〜?うるさいなあ……」
勢いよく開け放たれた扉から、肩紐の細いドレスに身を包んだ女性が顔を出した。
さっき佐藤くんと腕を組んでいた人だ。
やっぱり雰囲気がどこか佐藤くんに似ている。
特に柔らかな目元がそっくりだ。
それに、ものすごくお酒くさい。
呂律も回ってないし、まっすぐ立っていられないのか、上半身がぐるぐる円を描くように動いている。
ベロンベロンだ。
その女性は俺と目が合うと、焦点の合っていない瞳を輝かせて、俺に――飛びついた。
「あ、イケメンだ〜!結婚してぇ〜!」
「えっ……えっ?」
「ギャー!なにやってんだよ!」
佐藤くんが奇妙な声をあげて、俺に抱きついていた女性をベリッと引き剥がした。
「姉ちゃん!」
え?
「いい加減にしろよ!酔っ払いはおとなしく寝てろって言っただろ!」
姉、ちゃん……?
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