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閑話:午後7時のジェラシー (7)
「なんで嫌になるんですか。一緒に幸せになるって言ったばっかりじゃないですか」
佐藤くんが俯いていた俺の顎をとらえて、強引に上を向かせる。
じっと俺を見つめるふたつの瞳は、少しだけ怒っているように見えた。
それでも、佐藤くんが真っ直ぐに俺を……俺だけを見てくれていることが、嬉しくてたまらない。
「……佐藤くんのせいだ」
佐藤くんの幸せのためならいつでも身を引く覚悟でいた。
そうできると思っていた。
それなのに、お姉さんにまで嫉妬してしまうなんて。
冷静になればわかったはずなのに、寄り添うふたりの後ろ姿を見たら頭に血がのぼってなにも考えられなかった。
離れろ。
触るな。
醜い独占欲が、俺の心を支配していた。
佐藤くんを、誰にも渡したくなかった。
「どうして、くれるんだよ」
「えっ……?」
「もう俺、絶対にひとりになんてなれない」
震える左手が、佐藤くんのタキシードを掴んだ。
重なり合う視線がその重みを増す。
佐藤くんの浅い吐息が唇にかかり、俺は期待に胸を高鳴らせながらゆっくりと目を閉じた。
乾いた唇がそっと押し付けられ、すぐに離れていく。
でもまたすぐに触れ合うと、今度は強く長く味わわれた。
閉じたまぶたの奥で蠢く闇が、佐藤くんの熱を受けて小刻みに揺れる。
もっと深い口づけが欲しくて唇を押しあけると、暖かい舌がぺろりと俺の舌先をかすめた。
そしてそのまま口内を優しく侵される。
歯列をなぞられ、舌を吸われ、呼吸ができなくなるほど長く吐息を奪われ、思考が曖昧になっていく。
気持ちいい。
気がついたら俺の両手は佐藤くんのタキシードをしわくちゃにし、俺の身体は佐藤くんのたくましい腕の中に閉じ込められていた。
佐藤くんの速い鼓動が、俺の心臓に直接響いてくる。
唾液が溢れるほど濃厚な口付けがふと途切れ、ねっとりとしたぬくもりが今度は首筋を這った。
ぞくぞくとせり上がってくるくすぐったいような感覚に、思わず甘い声が漏れる。
やんわりと甘噛みされ身を竦めると、佐藤くんが小さな笑いを零した。
その僅かな吐息にさえ、身体が反応してしまう。
佐藤くんは、かわいい、とうわ言のように呟いてから、俺の腰をさらに引き寄せた。
ふたりの間の距離が限りなくゼロに近づき、布ごしに昂ぶった熱がこすれ合う。
その淡い刺激がもどかしくてたまらず、佐藤くんの腕をとり、自らそこへと導く。
さわってほしい。
佐藤くんのその大きな手で、俺の――
「ん、んんぅ……」
唐突に混じった苦しげなうめき声に、俺たちは同時に全身の動きを止めた。
視界の端に、こんもりと膨らんだ布団がもぞもぞと動くのが見える。
……あ。
あー。
あー!
お姉さん!
「ご、ごめん!」
俺は!
俺はいったいなにを!
すぐそこでお姉さんが寝てるのに!
「俺、なにやって……なに、やってんだ」
「……」
「も、もう帰……」
「帰しません」
「佐藤く……」
「帰せるわけ、ない」
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