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閑話:午後5時のノスタルジー (2)
日曜日の午後を、最大級に無駄遣いする方法。
それは――
「理人さん、着替えられました?」
アラサー男子ふたりのコスプレショー。
「まだだ!入ってくるなよ!」
「プッ、分かりました」
僅かに漂う湿気た臭いに顔をしかめつつ、キャメル色のズボンに足を通す。
この制服を着るのは高校の卒業式以来だ。
シャツを着て、タイを締め、深緑色のブレザーを羽織る。
鏡の中に映った自分を見て、やっぱり、と嘆息した。
どう考えても不自然だ。
身体のおおまかなサイズは変わっていないから着心地は悪くないけれど、首から上は十二年前とはすっかり変わってしまった。
佐藤くんはどうして俺のこんな姿が見たいんだろう。
分からない。
でも。
――木瀬さんは毎日見てたんでしょ……?
あんな風に言われたら、断れないじゃないか!
しかもこうなったら最終手段だと「俺ひとりだけ着るなんて嫌だ……」と哀しげに言ってみたら、佐藤くんは瞳をキラキラさせて「じゃあ俺も制服持ってきます!」と本当に取りに行ってしまった。
鏡の世界の向こうから仏頂面の自分がこっちを見てくる。
こんな俺の姿を見て、佐藤くんは本当に喜ぶんだろうか。
「理人さん?」
「……」
「大丈夫ですか……?」
「今から出てく!けど!」
「はい」
「絶対、笑うなよ!?」
「プッ、笑いません。約束します」
「……ほんとかよ」
ええい、ここまできたらしょうがない!
俺はまるで初めての戦場に飛び出す武士のように身震いして、寝室の扉を開けた。
毛羽立った床を踏みしめながら、リビングに向かう。
その開けた空間にそっと足を踏み入れ、斜め下に落としていた視線を上げ――
「え……?」
俺は、固まった。
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