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閑話:午後5時のノスタルジー (3)
そこには、詰襟姿の佐藤くんが立っていた。
「やっぱり似合うじゃないですか!」
「……」
「理人さん……?」
「あ、あ、あー……うん。そ、そうか?」
「はい、似合ってます」
「あー、あ、あー、あ、りがとう。佐藤くんはその、学ラン、だったんだな」
「はい」
「に、似合ってる」
「そうですか?」
「ん」
「やった!」
「……」
まずい。
これは相当まずい。
見惚れる。
学ランなんて聞いてない。
しかも、学帽つき。
なんだか、いつもよりさらに背が高く見える。
上から下まで紺色一色だからだろうか?
こんなの、似合ってるなんてもんじゃない。
今すぐ押し倒したいくらいにかっこいい。
佐藤くんってこんなにかっこよかったのか?
いやいつもかっこいいけど!
でも、こんな高校生いないだろ。
いやもう高校生じゃないけど!
高校時代はモテただろうな。
そういえば、初体験は高校の同級生だったって言ってたっけ。
ゆかちゃん?
ゆみちゃん?
まさか学校で……なんてことはないだろうけど、この格好でその子と向き合ってたんだろうか。
女の子のか細い指が、佐藤くんの学ランをゆっくりと脱がして……あー、だめだ。
イライラする。
それに、
ムラムラする。
今すぐ佐藤くんを押し倒して、その上に跨って、綺麗に並んでいる金ボタンを弾き飛ばしてやりたい。
むき出しになった肌に吸い付いて、銭湯にすら恥ずかしくて行けないくらいいっぱい俺の跡をつけて、この学ラン姿に紐付いてる記憶を全部、俺とのセックスで上書きしてやりた――
「理人さん」
「えっ?あー……え?」
「もしかして、俺に見惚とれちゃってる?」
「……っ」
「えっ、ほんとに?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「そ、そこで照れるなよ」
「理人さんこそ……」
「……」
「……」
いやだから、黙るなよ!
なんだこの空気!?
恥ずかしい!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
「あれ……?」
「な、なに」
「理人さん、どうしたんですかそれ?ボタン、全部取れちゃってる」
「あー……なんか、第二ボタンがどうのって……」
「第二ボタン……?」
「今でもあるのかは知らないけど、当時は卒業生から第二ボタンをもらうと幸せになれるというジンクスがあったとかなかったとかで、いろんな人にくれって言われて」
「それで、全部あげちゃったんですか?」
「うん。ほかのボタンでも多少のご利益はあるらしいから」
「そう、ですか……」
佐藤くんが、なにやら難しい顔をして考え込んでしまった。
やっぱり、佐藤くんの時代にはもうそういう慣習はなかったんだろうか。
もしかしたら、地域によって違うのかもしれな――
「神崎先輩」
「……は?」
「どうして、約束守ってくれなかったんですか?」
「え?は?え?」
「第二ボタン、俺のために取っておいてくれるって言ったじゃないですか」
「あ、あの、佐藤くん……?」
「神崎先輩が言ったとおり俺が卒業するまで待とうと思ってました。でももう、待てません」
「ちょ……ひゃ?」
肩に圧を感じた時にはもう佐藤くんの満面の笑みがだんだん遠ざかっていく頃で、俺はあっという間にソファの固いクッションに背中を沈み込ませていた。
あー、なんだ。
うちの天井って真っ白じゃなくて模様があったんだな……って、そうじゃない!
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