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閑話:午後5時のノスタルジー (5)

「んっ……!」 恐る恐る触れたそこは、いとも簡単に指先を飲み込んだ。 異物を押し出そうと蠢く内壁と、そこに侵入しようとする指がどちらも自分のもので、まるで無敵の矛と盾のにらみ合いだ。 どちらが勝っても負けても今求められている結果が得られないことに気づき、どうしたらいいのかわからない。 「神崎先輩、大丈夫?」 「だいじょうぶじゃな、い……っ」 「まだ第一関節までしか入ってないよ。頑張って?」 「っは、う……っ」 頑張るって? なにを? 閉ざしていた瞼を押し上げると、佐藤くんの瞳が情けない俺の姿を映し出していた。 年不相応極まりない高校の制服を着た男が、ソファに倒れこんでお尻に自分の指を突っ込んでいる。 そんな俺を見下ろす佐藤くんの視線が、今にも爆ぜてしまいそうな情欲の雨を俺の全身に降り注いでいた。 その熱に導かれるように、人差し指にゆっくりと圧をかける。 「んっ……ふっ……」 少しずつ強くなる異物感に耐えきれず、すぐに動けなくなってしまった。 だめだ。 やっぱり無理だ。 佐藤くんがしてくれる時とは全然違う。 なにも気持ちよくない。 「だめだよ、先輩。ちゃんと動かさないと、解れない」 「あ、あっ!な、なに……っ」 ふいに佐藤くんの大きな手が俺の左手を包み込み、無造作に動き出した。 「俺が手伝ってあげる」 「や、やめ、ろ……っ」 佐藤くんに操られた指が、丁寧とはほど遠い速さでそこを出たり入ったりする。 「あっ、んぅっ、い、いやだっ、いやだっ」 「なにが?」 「だ、だって、自分ので、こんな、あ、あ、ひぁっ!」 「でも、しっかり感じてるんでしょ?」 「う、るさい……っ」 佐藤くんの口の端が、意地悪そうに歪んだ。 なんなんだ。 本当に、なんなんだ! 高校の制服だとか。 先輩だとか。 自分でやれとか。 頑張れとか。 佐藤くんの考えてることはわからない。 この〝プレイ〟のどこがそんなに興奮するのか、俺にはわからない。 全然わからない! でも……。 ――木瀬さんは毎日見てたんでしょ……? 俺と航生の過去が関係していることは、なんとなくわかる。 だから、こんなの嫌だけど。 自分で指突っ込んで、それを佐藤くんに見られて、しかも手伝われるなんて。 こんなの、ものすごく嫌だけど! ……それでも。 佐藤くんが安心できるなら。 佐藤くんのためなら。

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