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閑話:午後5時のノスタルジー (8)
なんだそれ。
嫉妬がおさまった?
なんだか拍子抜けしてしまう。
嫉妬って、そんな風におさまるものなのか……?
俺が悶々としているのがわかったのか、佐藤くんがおもしろそうに笑った。
「だって理人さん、自分でお尻に指挿れちゃうくらい俺が欲しかったんでしょ?」
「んなっ……」
「理人さんなら絶対涙目でやだやだ言ってくれると思ってたんですけど」
「なっ……なっ……?」
「そんなのできないっ、佐藤くんやってよぉ……っていうのを期待してたのに」
「なっ……なっ……なっ……!?」
「まさかほんとに自分でやってくれるなんて思わなかったから、ああ俺、理人さんにめちゃくちゃ愛されてるんだなあって思っ……」
「お前ほんともう黙れって!」
なんだそれ。
なんだそれ!
自分でやれって言うから。
佐藤くんがやれっていうからやったのに!
俺の葛藤を返せ。
俺の頑張りを返せ。
俺の踏ん張りを返せ。
俺の心配を返せ。
俺の語りを返せ。
俺の……俺の……俺の馬鹿野郎おぉぉッ!
「佐藤くん!」
「はい?」
「来週は映画に行くからな!」
「えっ、映画?」
「佐藤くんと家にいたらエッチなことにしかならないだろ!だから出かける!」
「いいですけど……って、あ、ちょっと理人さん!どこ行くんですか!?」
「トイレだ!ついてくんなよ!」
ほとんど駆け足でトイレに飛び込んで、バタンと扉を締め、ガチャっと鍵をかけた。
いたたまれない。
どうしようもなくいたたまれない。
自分がいたたまれなさすぎて泣けてくる。
俺どんだけ佐藤くんのこと好きなんだよ!
こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃなかったんだ。
こんなはずじゃなかったのに!
くそう。
くそくそくそくそ――
コンコン。
「あの、理人さん?」
「な、なんだよ!ついてくんなって言っただろ!」
「ごめんなさい。でもさっきから心の声が全部大音量でだだ漏れてるから、一応言っとこうと思って」
「……」
「理人さん?」
「……」
「大丈夫?」
「……」
「理人さーん!?」
ああもう。
「豆腐の角で頭殴られて死にたい……!」
fin
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