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閑話:午後8時のデリカシー (5)

「付き合ってるんですかね?」 「かもな」 「木瀬さんもですけど、渋谷さんもかっこいいですよね」 「あー……そう、なのかな」 「モテるでしょ?」 「たぶんな。ただ愛想がないからけっこう怖がられてる」 「そうなんですか?」 「うん。俺も最初は怖かった」 「えっ」 「上司って立場上必死に隠してたけど。あ、エビチリ美味い」 「……プッ」 「なに?」 「いえ。幸せそうに食べてる理人さん見てたら、いろんなことがどうでもよくなりました」 「いろんなことって?」 「いろんなこと、です」 意味深な反応に納得いかないままエビチリをもぐもぐ噛み砕いていると、佐藤くんがまた笑った。 そしてちょうど通りすがった店員さんを呼び止めて、俺のりんごジュースを注文してくれる。 ついでに自分のお酒も追加注文すると、佐藤くんは俺の空になった皿にまたエビチリを盛ってくれた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう。佐藤くんって慣れてる、よな」 「慣れてる?なににですか?」 「こういう、なんていうか……」 「デート?」 「あー……うん」 佐藤くんが、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。 「理人さん、妬いて……」 「ない!」 「えぇ〜っ」 「妬いてはない!ただ……これまで佐藤くんと付き合ってきた女の子たちは、こんな風にふたりで食事したんだな、とか……一緒にお酒飲んで酔っ払ったのかな、とか……楽しかっただろうな、とか……」 「理人さん、それ完全に餅焼いてますから」 「……うるさい」 ニヤニヤから満面のニコニコに笑顔を変化させた佐藤くんの顔から眼を背けて、たこわさを箸で多めに掬い取り口に入れる。 鼻の奥がツンと痛んで、向こう側にいる佐藤くんの姿が僅かに霞んだ。 「理人さんだけですよ」 「え?」 「おすすめデートスポットを検索したり、着ていく服に三日前から悩んだり、前日の夜ドキドキワクワクして眠れなくなったり、元彼に対抗して恥ずかしい話披露しちゃったり、ただ美味しそうに食べてる姿を永遠に見つめていたいって思ったり、もっとヤキモチ妬いてかわいいところ見せてほしいって思ったり……そういうの、理人さんだけです」

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