258 / 492

閑話:午後8時のデリカシー (7)

「……理人さん」 「あ、あー、や、やっぱり今の忘れ……」 「帰りましょう」 「……は!?」 佐藤くんが、唐突に立ち上がる。 俺は、ちょうど目線の先に立ちはだかった佐藤くんの下半身に釘付けになった。 待て。 待て待て! なんでそんなとこ膨らませてんだ! 「ま、まさか今のでムラムラ……」 「しました!」 「はぁ!?」 若いからって、いくらなんでも安易すぎやしないか!? しかもここ、居酒屋なんだぞ! 思わずズリ、と身を引いた俺の手首を佐藤くんの大きな手がひっ掴み、さらに反対側で伝票を握りしめる。 そして、力と勢いだけで俺の身体を無理やり立たせて、強引に引きずり始めた。 「ちょ、待っ……まだ全然食べてないから!」 たこわさー! 俺のたこわさがー! カマンベールの天ぷらなんて、絶対美味しいに決まってるのに! 食べ物を粗末にしちゃだめなんだぞ!? 「俺が理人さんを食べてからちゃんと夕飯作りますから!」 「そういうこと大声で言うな!」 だから酔っ払いは嫌いなんだ! こっちは生まれた時から永遠に素面で生きる運命だっていうのに、ひとりだけ勝手に楽しくなりやがって! 「ああ、だめだ。家までもたないかも」 「は?」 「近くのラブホでいいですか?」 「はぁ!?」 「あれ、理人さん初めて?」 「そ、そうに決まって……」 「ホテルなら声出し放題だし、いろんな道具も揃ってますよ?」 「んなっ……」 ななななななな!? 声出し放題? 道具? いっぱい? なに言ってるんだ。 なんの話だよ。 ええい疼くな、俺のおしり! 「あ、その顔、期待してる顔だ」 「し、してな……」 「理人さんの期待以上に頑張るんで、今夜もいっぱい喘いでくださいね?」 「ちょっ……」 「ちょ?」 「ちょっ……ちょっ……」 「ちょちょ?」 「調子に乗んな、この酔っ払い!」 「あいてっ!」 fin

ともだちにシェアしよう!