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裏閑話:午後0時の観察日記 (1)
午後0時、わたしたちの戦いが始まる。
20階建てのビルにチャイムが響き渡ると、それまで閑散としていたのが嘘のように店内に人が溢れる。
そのほとんどが『ネオ株』の社員で、鮮やかなオレンジ色の社員証をチラつかせながら思い思いの昼食を買っていく。
次々と去っては現れ、現れては去っていくお客さんの群れを機械のように心を無にして捌いていると――
「ええっ、神崎課長に告った!?」
『神崎課長』に思わず反応してしまったのは、その人が、今隣のレジでにこやかな笑顔を振りまいている佐藤くんの〝カレシ〟だからだ。
そう。
カレシ。
滾った?
滾るよね!?
滾った人手を挙げてー!
はーい!
「シーッ!声が大きい!」
「ご、ごめん!でもどういうこと?」
「さっき物品庫を整理してたら、神崎課長がフラッと入ってきてさー……」
物品庫?
ってもしかして密室!?
「付箋を探してたから、はいどうぞって渡したんだけど……」
だけど!?
「ありがとう、って優しく微笑まれたらなんか頭がポーッとしちゃって……つい『神崎課長って好きな人いるんですか?』って聞いちゃったの」
「ちょっとアンタそれ、もう告ってるじゃん」
「だからついだったんだって!至近距離で課長が微笑んでるんだよ!?」
「はいはい……で!?」
そうそう、早く続きを聞かせて!
「課長はなんて?」
「……」
「まさか付き合うことに……」
「ち、違うよ!そんなことになるわけないじゃん!でも……」
えっ、ひどい!
なんでそこで小声になるの!?
肝心なところが全然聞こえないんだけど!
どうでもいいことはベラベラ大声で喋ってたくせに――
「……?」
視線を感じて振り返ると、さっきまで笑顔だった佐藤くんの形のいい眉がグッと寄っていた。
わたしの前で楽しそうに盛り上がる女子ふたり組を睨んでる。
ん?
これは、もしかして。
なにかが。
なにかが起こりそうな予感――!?
た、滾る……!
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