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裏閑話:午後0時の観察日記 (2)
午後0時25分、神崎さんがやってきた。
「いらっしゃいませ」
「ん」
や、やめて!
カウンター越しにジッと見つめ合うとかやめてぇ!
朝も会ったでしょ!?
それなのに佐藤くんは、
――4時間ぶりの理人さんだ……ああ、今すぐ抱きしめたい。
みたいな顔で見てるし、神崎さんだって、
――佐藤くんの顔見たら、仕事の疲れも吹っ飛ぶな……好き。
みたいな顔で見てるし!
ああもう、チューしていいよ!
わたしが許す!
「あ、今日は坦々麺にしたんですね」
「あー……美味しいって聞いたから」
「確かに美味いです。温めますね」
「うん」
神崎さんは、わたしたち店員の間で『超絶イケメンのカルボナーラさん』として話題になるほどこだわり続けていたカルボナーラを、最近買わなくなった。
なんか心境の変化があったんだと思う。
それがなにかはわたしにはさっぱり分からないけれど、佐藤くん絡みだといいな、なんて思ってしまうのはただの老婆心なのか、それともわたしが筋金入りの腐女子だからなのか。
どちらにしても、カルボナーラを買わない神崎さんを見る佐藤くんの表情は、なにかが吹っ切れたような、スッキリしたような……晴れ晴れとして見ていて気持ちよかった。
「お待たせしました」
佐藤くんは、ほかほかに温まった坦々麺と一緒におしぼりとお箸をベージュの袋に入れて、どこかワクワクした様子で待つ神崎さんに差し出――さなかった。
「理人さん」
「ん?」
「俺に何か言うことないですか?」
「言うこと?」
神崎さんが、不思議そうに首をかしげる。
あ、佐藤くん今絶対「理人さんかわいい……!」って萌えた。
だってわたしも萌えた!
神崎さんかわいい!
イケメンの首コテンってほんとに滾る……!
「なにか言い忘れてたことあったっけ?」
ああ……ありがとう、身長差。
イケメンの上目遣いいただきましたー!
佐藤くんが、ちょっと絆されてる。
う、ってなってる。
う、って!
でも歯を食いしばって堪えた!
堪えて、ちょっと憂えた瞳で、
「たとえば、誰かに告白された……とか」
神崎さんの唇が、ピクリと動いた。
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