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裏閑話:午後0時の観察日記 (3)
「あ、あー……」
神崎さんの目があっちこっちに泳ぐ。
「別に隠してたわけじゃ……って、なんで佐藤くんが知っるんだよ?」
「それは……」
佐藤くんを訝しげに見つめていた神崎さんの視線が急降下した。
「神崎てめぇ!」
ぐえ、とカエルが潰れたような声を上げながらつんのめる神崎さんを絞め殺そうとしていたのは、見覚えのあるネオ株の人だった。
たまに神崎さんと一緒にお昼を買いに来る同期の人で、確か名前は――
「なにすんだよ、三枝!」
そう、三枝さん。
三枝さんは、目を細めて睨む神崎さんの鋭い視線をものともせず、さらにギリギリと締め上げた。
「てめぇ、また告られてフッたってホントか!?」
神崎さんの形の良い眉毛が、ギュッと寄る。
「しかも『好きな人がいる』って断ったらしいじゃねぇか!」
「なっ……」
「しかもしかも『そんなぁ!誰なんですかぁ!?』って泣かれて『一生一緒にいたい人』って言い切ったんだってな!?」
「おいっ……」
「今までゴメンだけで軽〜くあしらってきたくせに、どういうことだよ!?」
「そ、それはっ……」
「今夜は帰さねぇぞ!いいな!」
三枝さんは、人差し指をビシィッと立ててそう言い残し、大股で去っていった。
嵐が去った。
そんな言葉がピッタリな沈黙が、佐藤くんと神崎さんを包み込む。
「理人さん」
「……」
「好きな人って、誰ですか?」
神崎さんの顔が採れたての苺色に染まった。
それを佐藤くんがにこにこ……ううん、ニヤニヤしながら見てる。
佐藤くんもこんな顔することあるんだ。
普段と違う……てことは、神崎さんだけに見せる顔なんだろうな。
……うん。
萌える!
「ほんとに言っちゃったんですか?一生一緒にいたい、って」
「……言ってない」
「ほんとに?」
「……」
ああもう佐藤くん、もうその辺にしてあげて!
神崎さんの目がだんだん潤んできてるし。
それにわたしにも筒抜けだし!
「……今夜」
神崎さん、声が震えてる……!
か、かわいい!
「今夜は、その、夕飯いらないから」
え、なにその報告!?
もしかしてもう一緒に住んでるの?
同居中?
ううん、同棲中!?
たまに朝一緒に出勤してたのはそういうことなの!?
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