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閑話:午後2時の再会 (3)
理人さんが、朝のランニングに付き合ってくれるようになった。
お揃い……は残念ながらサイズの在庫がなくて色違いになったけれど、俺と同じメーカーのランニングウェアとシューズを準備した。
あまりに張り切っていてかえって心配になったけれど、いざ初日を迎えてみたら、俺が思っていたよりも理人さんは走れたし、走るフォームがすごく綺麗だった。
それでも、ほぼ毎日走っている俺と理人さんとではそもそもの持久力に差があるし……いや、むしろそうでなければ困る。
ちっぽけだとは思うけれど、俺の男のプライドだ。
いつもは半歩後ろを追いかけてくる理人さんの様子を見つつ、だいたい時計の半周分くらいの時間で切り上げていた。
でも今朝はなんとなく走り足りなかった。
隣の理人さんを見るともう十分頑張った様子で……だから、先に帰って待っていてもらうよう提案した。
そうしたら、理人さんの頬が膨れた。
「佐藤くんは……?」
「もうちょっとだけ流してから戻ります」
「だったら俺も走る」
「無理はだめ。怪我しちゃいますよ」
「でも、ひとりで帰るなんて……」
「じゃあ、俺も一緒に帰ります」
「……それもいやだ」
「理人さん?」
「佐藤くんがやりたいこと、俺のせいでできないの嫌だから」
「……」
「走る」
「……わかりました」
少しだけペースを落として、朝の澄んだ空気の中を並んで走った。
ぽつ、ぽつ、と花開き始めた薄紅色の桜の花が、俺たちを迎え、見送ってくれる。
色違いのウェアが同じタイミングで音を立て、規則正しいリズムを刻む。
時折触れ合いそうになる腕と腕との間にあるほんの少しの距離が、なんだかくすぐったかった。
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