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閑話:午後2時の再会 (4)

午前9時半。 ハッシュドポテトの最後のひと口をごくりと飲み込み、理人さんは両手を合わせた。 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」 「佐藤くん、ありがとう。美味しかった」 満足そうに微笑み、理人さんは空になったふたり分の食器をひょいと持ちあげた。 俺もマグカップをふたつ持ってそれに続き、シンクの蛇口をひねる理人さんの隣に立つ。 少しだけ俯いた理人さんの横顔を隠すように、色素の薄い髪がさらりと流れた。 「理人さん、髪伸びましたね」 「んー、近いうちに揃える」 「美容院ですか?」 「うん。同級生がやってるお店があるんだ」 「同級生?」 「高校の。電車で40分くらいのとこだけど」 「そうなんですか、いいなあ。俺もそろそろ切らなきゃ」 邪魔になり始めた前髪を引っ張ると、その隙間から理人さんが俺を見つめてくる。 「……行くか?」 「えっ?」 「ちょっと待ってろ」 洗い物の途中だというのに、理人さんは水を止めた。 タオルでザッと水滴を拭い、湿った手をキッチンカウンターのスマートフォンに伸ばす。 そして指先で何度か操作すると、ちらりと俺を見てから寝室の方に歩いて行ってしまった。 唐突にポツンと取り残された俺は、のろのろと洗い物を再開する。 二本のフォークをまとめて洗っていると、理人さんが戻ってきた。 「今日2時に予約取れた」 「えっ」 「ふたり分。髪、切りに行こう」 理人さんは、綺麗に笑った。

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