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閑話:午後8時のロールプレイ (3)

佐藤くんは一瞬ポカンと口を開けた後、全身を小刻みに震わせ始めた。 「笑うな!」 「ご、ごめんなさい。だって理人さん、かわい……ふふっ」 まさかそれで笑いを堪えてるつもりじゃないだろうな……? 目を細めると、佐藤くんはもう一度、ごめんなさい、と半笑いで言いながら、わざとらしい咳払いを何度も繰り返した。 目にうっすら涙まで滲ませやがって。 うっかりミスのひとつやふたつなんて、佐藤くんだっって経験があるはずだ。 それなのに……むかつく! 「はあ、やばかった……それで、なんで作業着羽織ってるんですか?」 「スーツだとポケットが丸見えでいろんな人にいじられるからだよなー?」 「航生!」 「プッ……」 小さく噴き出した佐藤くんがまた、ごめんなさい、と頬を弛ませた瞬間、大きな機械音を切り裂いた。 佐藤くんが急に店員らしい態度に戻り、電子レンジの方に向かっていく。 俺はぎゅうぎゅうと締め付けるように首に巻きついていた航生の腕を抓った。 「いってえ!」 「余計なこと言うなって言ってあっただろ!」 「だってこんなおもしろいこと他にねえじゃん?」 くそう……そういうことか。 いつも外食の方が好きなくせに、今日はやけに素直についてくると思ったら! 「木瀬さん、あんまり理人さんをいじめないでください。気持ちはわかりますけど」 「わかるなよ!」 「カツ丼おふたつ、お待たせいたしました」 佐藤くんは満面の笑顔を浮かべ、薄茶色の袋をふたつ差し出した。 「どーも!」 「……ありがとう」 「なーにいつまでも拗ねてんだよ」 航生が、乱暴に頭を撫でてくる。 その手首を大きな手でガシッと掴んで、佐藤くんが俺に視線を落とした。 「理人さん」 「ん?」 「今夜は俺ん家でもいいですか?」 「あー……うん。いいけど、なんで?」 佐藤くんは、目を細めて笑むだけでなにも答えてくれない。 思わず航生を見上げると、佐藤くんに引っ掴まれた手首をさすりながら肩をすくめてみせた。

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