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閑話:午後0時の乱<改> (1)
午後0時15分。
秒針が12を通過するのと同時に、その人はカウンターの向こう側に現れた。
ニヤニヤとしか形容できない嫌な笑みを浮かべながら。
「……いらっしゃいませ」
「どーも」
木瀬さんはいつもどおり軽い口調で応え、腕の中に抱えていた商品を並べていく。
黒烏龍茶のペットボトルに、わかめサラダに……カルボナーラ。
理人さんが宮下さんに『超絶イケメンのカルボナーラさん』と呼ばれていた頃の定番ラインナップだ。
いったい、なんのつもりだ?
疑いの眼差しを隠さずに木瀬さんを見やると、ただ口の端を上げた。
どうやら、なにも言うつもりはないらしい。
俺は仕方なくカルボナーラを持ち上げた。
「温めますか?」
「お願いします」
重低音を響かせながら電子レンジが動き出すのを見届け、俺はもう一度木瀬さんに向き直り千円札を受け取った。
お釣りとレシートを渡し終え、視線で斜め横を示す。
「それでは少し横にずれてお待ちくだ――」
「あーあ」
決まり文句を遮り、木瀬さんは大きなため息を吐いた。
わざとらしい。
しかも、そのわざとらしさを隠していないのも、きっとわざとだ。
俺は仕方なく聞いた。
「……どうかしたんですか」
「せっかく俺がこっちに戻ってきたのに、今度は理人が東京かーと思ってさ」
「え、東京……?」
「あれ、聞いてない?」
木瀬さんの顔が、なぜだかパッと明るくなった。
そして身を乗りだして俺に詰め寄ってくる。
「会社の命令には逆らえないとは言え、あんまりだよな?」
「命令……?」
「今週末は一緒に遊びたかったのに!」
「今週、末……?」
「なに、佐藤くん。まさかほんとに聞いてないの?」
「聞いて、ません」
理人さんが、東京に転勤――だなんて。
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