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閑話:午後0時の乱<改> (4)

それまでじっと俺の言葉に耳を傾けていた理人さんが、急に身を乗り出した。 顔と顔が近づいて、心臓が小さく跳ねる。 理人さんの眉が、ギュッと寄った。 「佐藤くん、なにか勘違いしてないか?」 「勘違い?」 「東京に行くって言ったって、別に異動とか転勤じゃない」 「へっ……?」 「ただの出張だ」 「しゅ、出張?」 「遅くとも月曜の仕事に間に合うようには帰ってくる」 「月曜……」 「本当は部長が出るはずだった会議に急きょ駆り出されることになって……佐藤くんと動物園行く約束してたから航生に任せようと思ったけど、あいつは東京から戻ったばっかりだからお前が行けって言われて断れなくなって……佐藤くん?」 ちょ、ちょっと。 ちょっと待ってくれ。 「うっそでしょ……?」 だって。 あーあ、とか。 せっかく俺がこっち戻ったのに今度は、とか。 会社の命令、とか。 木瀬さんがそんなこと言うから、てっきり……。 「また俺のひとりよがりだったってことですか……?」 「あー……というより、航生に遊ばれたんだろ」 「遊ばれ……!?」 な、な、なっ……! そうか……あのニヤニヤの時点で気づくべきだったんだ。 最近ものすごく平和だったから油断してた。 時々渋谷さんと一緒にいるの見かけて、ああそういうことか、なんて勝手に納得してた。 あいつが理人さんの元カレだったことをすっかり忘れてた。 ちくしょう。 木瀬航生。 ぶっ殺す……! 「ふふっ……」 「理人さん!?」 「あー、ごめん……ふふっ」 「笑うなんてひどい!」 こっちは風呂の底に沈むくらい悩まされてたのに。 むしろもう一回沈みたいくらいなのに。 沈んで、二度と浮き上がりたくないくらいなのに。 ちくしょう。 ちくしょうちくしょうちくしょう。 完全に騙された! 「佐藤くん」 気がついたら、半笑いのままの理人さんの顔が目の前にあった。 いやらしい笑顔もかっこいいな、こんちくしょう。 心の中で悪態つかれているなんて露をも知らず、理人さんがゆっくりと俺の脚に跨った。 ぴたりと肌が密着する。 「前に言っただろ。東京には行きたくなくて希望出してないって。なんでかわかる?」 「わかりませんよ、もう。なにがなんだか……んっ」 「佐藤くんと離れたくないからに決まってるだろ」 長い指が、俺の下唇をなぞる。 ゆっくりと二往復したと思ったら、指が乾いた唇に入れ替わった。 すぐに離れて、でもまた吸い付いてきて、今度は離れないまま、舌先で弄ばれる。 なんなんだよ。 なんなんだよ、もう! いつもは一緒に入るのをこれでもかと嫌がる風呂に自分から入ってきたり。 跨ってきたり。 キスしてきたり。 股間を擦り付けてきたり。 熱い吐息を吹きかけてきたり。 こんなの、 「もう、ほんと……ずるい」 「あ……!」 ほんのり桜色の首筋に、がぶりと噛み付いた。

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