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6ー1:午後11時の決意 (1)
台形の車窓を、黄緑色の景色が猛スピードで流れていく。
「理人さん」
「……」
「理人さん?」
「あー……ごめん。なに?」
「コーヒー、飲むでしょ?」
「ん、もらう」
ありがとう。
いつものように丁寧に礼を言い、理人さんはペットボトルの蓋を捻った。
小さくひと口啜り、柔らかいプラスチックのボディを握りしめてを何度かベコベコ鳴かせる。
そして蓋を締め直し、窓際に置いた。
平成最後の土曜日の朝。
俺は、理人さんと一緒に電車に揺られていた。
出がけに見ていたニュース番組によると、今日から十連休という日本の暦史上最長のゴールデンウイークが始まっているらしいけれど、この時間の電車はまだ閑散としていてあまり実感がわかない。
「理人さん」
「……」
「理人さん?」
「あ……ごめん。なに?」
「大丈夫ですか?酔った?」
「いや……酔ってはない」
曖昧に苦笑してみせる理人さんは、やっぱり顔色が悪い。
電車に乗るまではいつも通りだったのに、橙色の車体がゆっくりと滑り出した頃から、理人さんは一気に口数が少なくなった。
窓枠に頬杖をつき、ただ流れていく外の景色をぼんやりと眺める。
「ちょっと……」
「ちょっと?」
「緊張……してるんだ」
理人さんは、自嘲するように笑った。
「大丈夫ですよ。みんな理人さんに会えるの楽しみにしてますから」
「ん、そう、なんだろうけど」
理人さんはまた視線を窓の外に向けた。
その端正な横顔は、強張ったまま。
でも、仕方がないんだろう。
逆の立場なら、俺も当たり前のように緊張していたと思うから。
「あ、理人さん。葉瑠 兄 が駅まで車で来てくれるって」
「葉瑠先生が?」
そう。
俺たちは今、俺の故郷に向かっている。
俺の実家に。
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