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6ー3:午後6時の団欒 (2)
「イケメンってずるいよなあ……」
目に入れてもいなくないほど溺愛している娘をあっさりと取られて、葉瑠兄がぼやく。
最初は人見知りして理人さんに近づかなかった瑠未が、理人さんの笑顔に絆されて早二時間。
今や理人さんを見る瑠未の目は、完全に恋する乙女のそれだ。
ままごとから始まり、着せ替え人形に、シルベスタファミリーを使った壮大な動物家族物語絵巻。
さらに塗り絵や折り紙を経て、最終的に黒ひげ危機一発まで、ふたりはノンストップで遊びっぱなしだった。
パパはここだぞ〜と邪念を送る葉瑠兄には目もくれず、瑠未は葉瑠兄譲りの大きな目をきらきらさせて、理人お兄ちゃんあれしよ、理人お兄ちゃん次はこれね、理人お兄ちゃんお馬さんになって……って、え!?
「ちょっと瑠未!理人くんになんてことさせてるの!」
未砂さんが慌てて駆け寄り、理人さんの背中に跨っていた瑠未を降ろした。
理人さんは大丈夫だと宥めるが、未砂さんに叱られて瑠未はシュンとしてしまう。
「瑠未ちゃん、ごめんね。お馬さんはパパがやってくれるって」
「でも瑠未もっとお兄ちゃんと遊びたいもん……」
「じゃあ、もう一回折り紙やる?」
「うん!」
あっという間に笑顔を取り戻した瑠未を前に、理人さんがホッと息を吐いた。
瑠未は部屋の端っこからキラキラ光る箱を持ってきて、かわいらしい花柄の紙を理人さんに差し出した。
瑠未にちょこんと隣に座られ、理人さんが表情を和らげる。
そしてピンク色の紙を、カサカサ動かし始めた。
あ、あの折り方は、たぶん鶴。
「信じられない……」
「葉瑠兄?」
「あの折り紙、パパはダメ、って俺には絶対触らせてくれなかったのに!」
「そのうち、理人お兄ちゃんと結婚する!って言い出すんじゃ――」
「お父さんは許しません!」
葉瑠兄が、本気なのか冗談なのかわからないテンションで言った。
思わず苦笑を漏らしてから、ふたりに歩み寄る。
「瑠未、そろそろ理人お兄ちゃんを解放してあげて」
「えー?」
「パパが寂しいって」
それに、俺も寂しい。
「もう、しょうがないなあ……」
瑠未はため息混じりに呟き、理人さんに「また後でね」と言い残して葉瑠兄の方にパタパタと走っていった。
まだたった5歳なのに、仕草がまるで大人のようで笑ってしまう。
「理人さん、お疲れ様でした」
「あー、うん。俺、瑠未ちゃんとちゃんと遊べてた?」
葉瑠兄にぎゅうぎゅう抱きしめられてケタケタ笑い声を上げる瑠未を、理人さんが心配そうに見つめる。
「兄弟いないし、小さい子と接することもないから、どうしたらいいのかよく分からなくて……」
「大丈夫ですよ、かわいかったです」
「そっか、よかった……」
「や、理人さんが」
「えっ……」
「すごくかわいかった」
「……うるさい」
理人さんは真っ赤に染め上がった顔を、ぷいっと背けた。
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