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6ー3:午後6時の団欒 (5)
水が豪快に跳ねる音がする。
長い指からパラパラと小さな粒が撒かれると、さらにその音が激しくなった。
我先にと集まって絡まり合う鯉たちを見守りながら、理人さんは目を輝かせている。
そんな理人さんの横顔を、スマートフォンを構えた瑠加がこっそり撮影していた。
「うわ、もうない」
一瞬で空になったボウルを覗き込み、理人さんがどこか寂しげに言う。
しょんぼりと肩を落として、ごめんな、と小さな声で鯉に謝る姿がかわいい。
「理人さん、はい」
「ん?」
「冷えてきたから」
握りしめたままだったグレーのパーカーを差し出す。
理人さんはチラリと空を見上げてから、布の塊をを受け取った。
「ありがとう。でも俺はいいよ」
「え?」
「瑠加ちゃ……瑠加」
「ん?」
「はい」
瑠加は、パタパタパタッと辞書をめくるように素早く瞬きした。
なぜか目の前にある灰色の塊を凝視し、理人さんを見上げ、最後に俺を見た。
そして深く長い息を吐き、
「……いい。もう中入るから」
そう言い残して踵を返して、家の中に消えた。
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