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6ー3:午後6時の団欒 (10)

ジャージャーと水の束が落ちる音がする。 その中に、カチャカチャと陶器が触れ合う音と、キュキュッと摩擦高い音が時折混じる。 泡にまみれた手が黄色いスポンジを丁寧に動かし、白い皿からカルボナーラの名残を洗い落とした。 「理人君、ごめんなさいね。洗い物させちゃって」 「いえ!俺……僕の方こそ、これくらいしかできなくて……」 「いいのよ、全然。ありがとう」 理人さんが洗った食器を俺が拭き、乾いた食器を母さんに渡す。 母さんは、また一枚ピカピカになったパスタ皿を手を伸ばして食器棚に片付けた。 「理人くんのお母様はカルボナーラがお好きだったの?」 「好きというより……それしか作れなかったんです」 「あら。じゃあいつもお父様が料理されてたの?」 「はい。それも必要に駆られてという感じだったんですが、母より父の方が器用だったのでなんとか……」 「男の料理というやつね」 母さんが興奮気味に言い、理人さんが微笑で応えた。 最後のフォークを洗い終え、理人さんが水を止める。 濡れた手をタオルで拭い、ふぅ、と息を吐いた。 青白かった顔色は元に戻ったけれど、横顔がいつもより硬い。 まだ緊張しているんだろうか。 確かに、出会い頭の空気は微妙だった。 でもそれは数時間前の話で、俺から見るともうかなり打ち解けているように見える。 母さんは最初から無条件にウキウキしているし、葉瑠兄と未砂さんは瑠未ちゃんと遊ぶ理人さんを優しくかつ嫉妬深く見守っていたし、瑠衣と瑠加は表現の仕方はそれぞれかけ離れているけれど、理人さんを受け入れてくれていることはよくわかる。 父さんはひと言目こそ刺々しかったけれど、気がつけば理人さんと普通に会話するようになっていた。 これはもう、大丈夫……じゃないのか? 「理人くん、お風呂沸いてるよ」 「えっ」 「せっかくだから冷める前に入ったら」 「あ、いや、俺は最後にするよ」 「えー?あたしが浸かった後のお湯に理人が入るとか、なんか嫌なんだけど!」 「じゃあ俺はシャワーで……」 「そういう意味じゃなくて!」 瑠加がほとんど地団駄を踏みながら理人さんに詰め寄り、理人さんは逃げるように首をのけぞらせた。 同じ年のはずなのに、なんだか姉と弟のような……いや、むしろ気の強い彼女と尻に敷かれてる彼氏? 「プッ……」 こっそり吹き出したつもりが、理人さんに気づかれてしまった。 久しぶりのへの字口を震わせながらこっちを見て、アーモンドアイを潤ませてなにかを必死に訴えてくる。 かわいい。 破天荒を地でいくタイプの瑠加の前では、だいぶいつもよりの理人さんになれるようだ。 「瑠加、もうそれくらいで……」 溢れ出そうになる笑いを堪えながら助け舟を出した俺の言葉を、 「理人君」 低い声が遮った。 「一番風呂に入る気がないなら、話をしよう」

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