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6ー4:午後8時の贈り物 (5)

なんで話してくれなかったんだよ。 なにひとりで悩んでんだよ。 俺がいるのに! そう憤りかけて、でもそれが……それこそが、理由だったんだと悟った。 もし理人さんがその心の内を俺に打ち明けてくれていたとしても、俺はきっとなにもできなかった。 大丈夫。 俺の家族だから。 安心して。 俺がついてる。 根拠も確信もないそんな能天気な言葉ばかりをつらつらと並べ、理人さんを慰めた気になっていただけに違いない。 本当は大丈夫なことなんて、なにもなかったのに。 俺の家族は、いつだって俺の意志を尊重してくれる。 その言葉に嘘や偽りは一切ない。 父さんも、母さんも、葉瑠兄も、瑠衣も、瑠加も、もちろん、未砂さんも。 いつだって、どこでだって、俺のことを大切に思ってくれている。 見守ってくれている。 真剣に愛してくれている。 だからこそ、父さんは、無条件に理人さんのことを受け入れるわけにはいかなかった。 理人さんは、そのことに最初から気づいていたんだ。 だから、殴られる覚悟までしていた。 なにも分かっていなかったのは、俺だけだ。 理人さんが好きで、大好きで、だからいろんなことを一緒に感じたい。 楽しいことや、嬉しいことは何倍にも膨らませて一緒に味わいたい。 辛いことや悲しいことは、半分に分け合いたい。 そう思っていたのに。 俺はまた、理人さんに全てを背負わせてしまっていた。 情けない。 悔しい。 奥歯を、ぎゅっと噛み締めた。 理人さんは、今もこうしてひとりで闘っている。 俺のために。 こんな、俺のために。

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