317 / 492

6ー4:午後8時の贈り物 (7)

「えっ、えぇっ!?ちょ、ちょっと理人君!?」 慌てふためく父さんの隣で、母さんが「あらあら大変、ティッシュティッシュ」と全然大変そうじゃない様子で、にこやかに立ち上がる。 理人さんは、差し出されたティッシュの箱から数枚分の厚みを一気に抜き取り、顔を伏せておいおいと咽び泣いた。 肩を一生懸命上下させてえぐえぐと嗚咽する姿は、まるで幼い子どものようだ。 やがてそれまで平気そうにしていた母さんもいよいよもらい泣きし始め、ティッシュを大量に消費し始める。 父さんはそんなふたりを呆れたように見やり、ただ静かに苦笑した。 「英瑠」 俺と同じ形の目が、どちらも優しい。 「いい人と出会ったな。大事にしろよ」 「父さん……」 「人を見る目があるよ。さすが俺の息子だ」 父さんは、込み上げてくるものを誤魔化すように鼻をすすった。 父さんの涙を見るのは初めてじゃない。 運動会の徒競走最下位でゴールする俺たちを見て泣き、受験会場に向かう俺たちを見て泣き、リクルートスーツに身を包んだ俺たちを見て、泣いた。 その時はまだ試着してみただけだったのに。 でもそんなのは序の口で、特に生まれたばかりの四兄弟を腕に抱く写真の父さんは、その四枚ともみっともないほど号泣していた。 元々涙もろい人なのだ。 今ならわかる。 俺が『彼氏』を連れて帰ると宣言してみせたその夜も、きっと父さんは陰でひとり、こっそり泣いたはずなのだ。 それでも、必死に向き合ってくれた。 理解しようとして、真剣に向き合ってくれた。 そして、許してくれた。 俺を。 認めてくれた。 理人さんを。 そして、 俺たちの気持ちを。 ああ。 俺の父さんが、父さんでよかった。

ともだちにシェアしよう!