「本当にお世話になりました」 「もう帰っちゃうの？なんだか寂しいわ」 「そう言って昨夜も引き止めたんじゃないか」 平成最後の日。 俺たちは、灰色の曇り空の下、すっかり帰り支度の整った身体を持て余しながら、予定より一日長めの四日間の滞在を終えようとしていた。 ほんのり日に焼けた理人さんの横顔は、とても穏やかだ。 右手に小さなボストンバックを持ち、左手には山菜と筍でいっぱいになった袋を提げている。 俺の両手にも、同じようにいろんな野菜でパンパンになった袋がひとつずつぶら下がっていた。 「瑠未ちゃん」 理人さんが、未砂さんの背中の後ろに隠れていた瑠未を覗き込む。 そして、目線を合わせるようにその場にしゃがみ込んだ。 「瑠未ちゃん、一緒に遊んでくれてありがとう。すごく楽しかったよ」 「どういたしまして」 「もし嫌じゃなかったら、また遊んでくれる？」 「うん、いいよ！」 元気よく答え、瑠未は理人さんに飛びついた。 しゃがんでいた身体ごと尻餅をつき、理人さんが悲鳴をあげる。 瑠未は理人さんの頬にかわいらしい口づけを落とすと、また小走りで母親の元へと戻っていった。 どこからか葉瑠兄のうめき声が聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。 「それじゃあ……」 「ああ、気をつけてな」 父さんと母さんの切なげな表情を前に後ろ髪をこれでもかと引かれながらも、俺たちは葉瑠兄の車に乗り込んだ。 来た時と同じように、俺が助手席に、理人さんは後部座席に乗る。 少し離れたところから、瑠衣と瑠加が手を振っているのが見えた。 ふたり揃っていかにも気だるげで、なんだか笑ってしまう。 葉瑠兄が車のキーを回すと、静かな空気の中にエンジン音がやたら大きく轟く中、 「あの！」 父さんと母さんが、揃って後部座席を見やる。 「また、来てもいいですか……？」 「当たり前でしょう」 母さんがちょっと怒ったように言い、 「いつでも帰っておいで。首を長しくて待ってるよ」 父さんは、慈しむように言った。