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6ー5:午後10時の帰り道 (3)
理人さんの切実な叫びを、山が拾い上げてエコーがかかった。
したい……したい……したい……とだんだんと遠ざかっていく山びこに反比例して、理人さんの顔はどんどん真っ赤に染まっていく。
「プッ」
「笑うとこじゃないだろ……」
「理人さん、淡白だ淡白だって言ってたし、言われてもいましたけど、もう返上ですね?」
「やだ、返上なんてしない」
「えー?」
「だって俺がそういうことに淡白じゃなくなるのは、佐藤くんの前だけだからな」
「えっ……」
「今だって、佐藤くんのが大きくなってるところ想像してるし、お尻に挿れられて気持ちよくなりたいって思ってる」
「ま、理人さん?」
「ん?」
「どうしちゃったんですか……って、もしかして煽ってる?」
理人さんの笑顔が、悪役のそれに変わった。
「家帰って先にキスした方が負けな」
「知りませんよ、どうなっても」
「望むところだ」
カア、とカラスが鳴いた。
なんだかものすごく間抜けなタイミングだ。
顔を見合わせて、同時に噴き出した。
ひとしきり笑い合い、空を見上げる。
青が遠い。
理人さんと過ごす四つ目の季節がやってくる。
「佐藤くん」
「はい?」
「好きだよ」
「俺も好きです……あ」
「ん?」
「俺の方が好きです」
「なんだそれ」
夏は、もうすぐそこだ。
fin
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