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閑話:午後3時の勝負 (2)
「なんだよぉ……っ」
もう、限界なのに。
家に帰ったら。
家に帰るまで。
あと少し。
もうちょっと。
そう言い聞かせながら電車の旅を乗り切って、田崎さんにちゃんと挨拶してお土産も渡して、エレベーターでも触らないように我慢して、やっと家に着いて、やっとキスできて、やっと裸になって、やっと佐藤くんを感じられると思ったのに。
「いつも好き勝手するくせにっ」
「これからも好き勝手はします。でも……」
視界がゆっくりと回転して、また背中がポスンと沈んだ。
「傷つけたりはしない」
ひと房の黒髪が、さらりと頬に落ちる。
さっきまでギラギラと欲望を滾らせていた瞳が、今はすごく穏やかだ。
なんだよ。
もうガッチガチのビンビンのくせに。
こんな優しいキス、しやがって。
「……ずるい」
「理人さん?」
「もう、完全に俺の負けだ」
笑みを深めた顔がさらに近づき、鼻先が触れ合った。
愛おしそうにさわさわと擦り、頬へ、耳へ、首筋へと移っていく。
「んっ!」
チリっと痛みが走り、身体が跳ねた。
慰めるようにしっとりと舐められ、異なる理由で咽喉が震える。
〝大事にする〟
その言葉通り愛 しむような口づけが、どんどんと下に降りていく。
鎖骨を掠め、胸の突起を悪戯に揶揄い、その度に痙攣する腹筋を宥めるように吸いつく。
それだけで弾けてしまいそうになるのを堪えたくて、ぎゅっと目を瞑った。
「あっ……?」
暗闇の中でふわりと意識が回転し、安定を求めて咄嗟に手が伸びる。
佐藤くんに触れるはずだった指は、いつの間にか手のひらの下になっていたシーツを皺くちゃにした。
うつ伏せにされた身体が波打ち、木が軋む音がする。
ガタゴトとなにかが動き、同時にお尻にドロリとなにかが落ちてきた。
「あ、な、なに……!」
「理人さん前に言いましたよね?挿れるだけがセックスじゃないって」
佐藤くんの手が、ローションをいつもと違う場所に塗り込んでくる。
刺激を求めてやまない孔が、焦れったさに喘ぎヒクつくのが分かる。
思わず自分からイイ場所に腰を動かそうとして、でもすぐにがっちりと固定された。
太ももに、力強い指が食い込む。
視線だけで振り返ると、佐藤くんが口の端を上げて微笑 っていた。
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