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閑話:午前11時の逢引 (1)
ふわふわと浮上と沈下を繰り返す意識を持て余したまま、惰眠を貪る。
外はもうすっかり明るい。
窓から差し込んでくる太陽の光を避けるように寝返りを打って、目を瞑ったまま腰をさすった。
史上最長だったゴールデンウィークも、気がつけば残すところあと2日。
思えばこの連休中は、ずっと腰が重かったし、お尻も……うん。
特に昨晩は、なんだかすごかった。
明日は佐藤くん仕事かあ、一緒にいられないの久しぶりだな。
なんとは無しに零れた俺のそんな呟きが、佐藤くんのなにかを刺激してしまったらしい。
スイッチの入った佐藤くんだって、もちろん嫌いじゃない。
むしろ好きだし、大好きだし、愛されてるって実感するし、俺のことをそんなにも欲してくれるのは、本当に嬉しい。
ただ、
「だっる……」
俺はもう30過ぎてるオッサンで、ついでに低血圧……なのは関係ないのかもしれないけど、とにかく朝が得意じゃない。
佐藤くんがいつも通り早起きしてランニングに行って、帰ってきてシャワーしてご飯を作ってる間も俺はとても起き上がる気にはなれなかったし、そもそもなんで目を覚ました瞬間からそんな風にチャキチャキ動けるのか、常に不思議に思っている。
今度ぜひ、佐藤くんの血圧を測らせてもらいたい。
血圧は関係ないのかもしれないけど。
ゴールデンウイーク最後の日曜の朝なんだからゆっくりすればいいのに、とこっそり悪態を吐いて、ああそっか佐藤くんは仕事だったっけ……なんてことを閉じた瞼の裏でグルグルと考えていた。
そうこうしているうちに、俺を起こすことを諦めたのか、そもそも今日は起こすつもりはなかったのか、佐藤くんが家を出て行く気配がした。
朝ごはん、ラップして冷蔵庫に入れておきましたから。
そんな言葉を残して。
俺はすぐにでも佐藤くんの作ってくれたご飯が見てみたくて、でもやっぱりまだ起き上がる気になれなくて、結局お決まりの二度寝コースへとまっしぐらした。
まあ、いいや。
起きてもどうせ佐藤くんはいないんだし。
ほんのりとだけど、佐藤くんの香りが残った布団の中にいる方が幸せだ。
そんな甘ったれなことを思って、でもそんなことを思ってしまう自分は、前ほど嫌いじゃなかった。
ピヨピヨピヨ。
静かだった空間を、ひよこの鳴き声が唐突に切り裂いた。
ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ……。
いつも数回で鳴き止むひよこが、そのままずっと鳴いている。
うるさい。
LIMEじゃないのか?
億劫がる左腕を叱咤しつつスマートフォンに手を伸ばしひっくり返すと、緑色の画面が広がっていた。
やっぱりLIME……あれ、でもなんだこれ。
電話?
「……もしもし?」
『あ、理人?』
一気に目が覚めた。
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