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閑話:午前11時の逢引 (3)

日差しが強い。 吹き抜けていく風は爽やかだけど、日向に出るとじわじわと肌が焼かれる。 今年の夏もきっと暑くなるんだろう。 瑠加ちゃんとの待ち合わせは、『ふ頭水族館前駅』の一番出口。 冬にここに来た時は、佐藤くんとの水族館デートだったから五番出口の約束だった。 一番出口はちょうどその反対側にあり、行き交う人は少なくないけど、子連れの家族はほとんど見かけない。 それもそのはず、水族館の代わりに建っているのは、てっぺんに銀色の十字架が光り輝く、白いチャペル。 青空とのコントラストがとても綺麗で、新たな人生の門出にこの場所を選ぶ人の気持ちがなんとなくわかる気がした。 「理人?」 「瑠加ちゃん!」 振り返った俺を迎えたのは、ジトっとした視線だった。 「ごめん……瑠加」 途端に笑顔になった瑠加ちゃんが、俺の隣に並ぶ。 目尻がトロンと下がるところや、頰のラインが左右対称に持ち上がるところとか、やっぱり、笑い方が佐藤くんに似ていると思う。 いつも佐藤くんを見上げているから、同じ笑顔を見下ろしていると思うとなんだか新鮮だ。 「お待たせ」 「いや、待ってないよ」 「そう?ならいいけど、理人、そのカッコ……」 「あー……変、だったか?」 ドレスコードのあるレストランになんて、行ったことがない。 迷いに迷った結果、クローゼットの奥からライトグレーのスーツを引っ張り出した。 爽やかな初夏の空の下にジャケットは重いかとベストにし、紺とシルバーのストライプのネクタイを合わせた。 瑠加ちゃんは、グレーのふんわりとした素材のブラウスに、末広がりのネイビーブルーのスカートを着ている。 ふくらんだ袖がかわいい。 偶然でも服装の色合いが似通っていて、なんとなく安堵した。 「はあああぁぁぁ!」 「え?」 「これがデートだったらなあ!」 肺の空気を勢いよく吐き出して、瑠加ちゃんが地団駄を踏む。 どんな言葉をかけるべきか分からないまま黙っていると、するりと腕を取られた。 まっすぐな笑顔が弾ける。 「さて、行こっか!」 「え、っと、どこに?」 「あそこ!」 瑠加ちゃんが指差したのは、太陽の光を浴びて輝くチャペルだった。

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