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閑話:午前11時の逢引 (4)

パステルカラーの風船に縁取られた看板が、眩しい。 太陽の光を手で遮りながら目を凝らすと、 『ブライダルフェア』 ……え? 「いらっしゃいませ。ご招待状を拝見してもよろしいでしょうか?」 「はい」 「佐藤様ですね。お待ちしておりました」 蝶ネクタイの青年が整った笑顔を浮かべ、お洒落な彫刻が施された木の扉を押し開ける。 そして開けた空間に、息を呑んだ。 眩しい。 スキップするようにウェイターさんについていく瑠加ちゃんの背中を、慌てて追いかける。 ところ狭しと並ぶ白いテーブルクロスを纏った丸いテーブルを、間を縫うようにいくつもすり抜けた。 「こちらでございます」 案内されたのは、一番奥のテーブルだった。 鮮やかな深緑色の絨毯に覆われた庭が、窓越しに輝いている。 瑠加ちゃんは窓際の席を俺に譲り、スルリと引かれたベージュの椅子に上品に腰を下ろした。 ウェイターさんが引いてくれようとするのを断り、俺も席に着く。 「それでは、もう少々お待ちくださいませ」 丁寧なお辞儀に、曖昧に応えた。 ウェイターさんの気配が遠ざかると、瑠加ちゃんがすぐにスマホを構える。 あちこち写真を撮っているようだ。 目がキラキラしている。 俺は瑠加ちゃんの視線の先を追うように、その眩しい空間を見渡した。 大きな窓から差し込む太陽の光が、とても明るい。 振り返ると、窓越しにさっき駅から見えていたチャペルが見えた。 このレストランからからチャペルまでは、芝生の綺麗な庭園が広がっている。 ぽつりぽつりと置かれている白いベンチには、肩を寄せ合うカップルたちがいた。 どこもかしこも、カップルばかり。 やっぱりここは……そういうこと、だよな? 向かい側に視線を戻すと、瑠加ちゃんはメニュー表を真剣な顔で見つめていた。 ふいにまばらな拍手が起き、対角線上にみんなの視線が集まる。 入ってきた時は気がつかなかったけれど、そこには白いグランドピアノがあった。 聞き覚えのあるラブソングが、繊細な旋律の上に乗って漂ってきた。 すごいな、生演奏なのか。 白いピアノなんて、本物は初めて見たな。 そんなことを考えながら、流れる音楽に合わせて気持ち良さそうに身体を揺らしているピアニストの姿を視界に捉え、瞬間、息が止まった。 「佐藤くん!?」 思わず立ち上がると、椅子がガタンと揺れ、周りの人たちがこちらを振り向く。 そして、件のピアニストも不思議そうに顔を上げ、大きく目を見開いた。 音楽が乱れる。 俺は慌てて腰を下ろし、何事かと視線を寄越してくるカップルたちに頭を下げた。 「瑠加ちゃん、どういうこと?」 「どういうもなにも、今日の英瑠のバイト」 「バイト?」 ジャーン、と綺麗に響いたハーモニーが遠ざかり、今度は揃った拍手が響き渡る。 立ち上がった佐藤くんが、笑顔でお辞儀した。 あ、かっこいい。 前にも見たことはあるけど、タキシードが似合うと思う。 後ろに流してるヘアスタイルもかっこいい。 思わず、ほえーと口を開けてみていると、佐藤くんと目が合った。 目が合って、顔をしかめられた。 あれ、なんか怒って……うわ、こっちに来た! あっという間に俺たちのテーブルまでたどり着いた佐藤くんは、俺をじっと見下ろした。 眉間に思いっきり皺が寄っている。 でも俺がなにか言う前に視線は外れ、そのまま瑠加ちゃんを睨んだ。 「瑠加」 「招待券くれたのあんたじゃん」 「だからって理人さんと――」 「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。本日は……」 穏やかな女性の声が、スピーカー越しに続いていく。 佐藤くんが、深く長いため息を吐いた。 「瑠加、あとで……」 「はーいはい」

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