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閑話:午前11時の逢引 (5)
司会の女性が挨拶を終えると、突然空気が動き始めた。
たくさんのウェイターさんたちがテーブルを渡り歩き、次々と料理が運ばれていく。
瑠加ちゃんによると、今日は、実際に結婚式で出すコース料理の試食会らしい。
どうりで、見渡す限りカップルばっかりなはずだ。
どのテーブルも、笑顔に満ち溢れている。
近い将来夫婦となるふたりの会話を邪魔しない優しいピアノの音が、さらに空間を甘くしていた。
顔を上げると、佐藤くんと目が合った。
目が合って、今度は淡く微笑まれる。
どうしよう。
かっこいい。
ふと、どこからか佐藤くんのピアノの話題が聞こえきて、
そうだろうそうだろう。
俺の彼氏はかっこいいんだ。
そんなことを得意げに考えて、ひとりで照れた。
払拭しようと、瑠加ちゃんが写真を撮り終えるのを待って、料理に手をつける。
「うわ、美味い」
「理人って幸せそうに食べるよね」
「あー……そう?」
「もしかして、英瑠にも言われた?」
「……うん」
瑠加ちゃんが、今日何度目かになるため息を吐いた。
「いいなあ」
「ん、なにが?」
「英瑠と理人。いかにも愛し合ってるって感じで」
「そ、そうか?」
「あたしのことも『佐藤くんに似てるな』とか『佐藤くんはいいお姉さんを持って幸せだな』っていう目線で見てるでしょ」
いいお姉さん。
自分でそんな風に言いきってしまう瑠加ちゃんの言葉は、本当に気持ちがいい。
それに言われたこともすべて的を射ていて、俺は頷くしかなかった。
「あたしはさ、ダメなの」
「なにが?」
「男運が悪い!……ていうより、あたしに男を見る目がないんだろうなあ」
ほう、と今度は違う種類のため息を吐く。
楽しそうに笑い合う男女を見つめる瑠加ちゃんの横顔があまりに儚げで、思わずフォークを置いた。
「そんなことないよ」
「え?」
「これまで出会った男が瑠加ちゃんに見合う男じゃなかっただけだろ。きっと次に出会う人とは上手くいくよ」
「だから……」
「あ、ごめん。瑠加」
「そういうことじゃなくて……」
「え?」
「いいよ、もうどっちでも」
瑠加ちゃんは佐藤くんと同じ目を細め、ありがと、と笑った。
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