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7-1:午後1時のたこパ (5)

「あれ?俺、今タコ入れたっけ?」 「入れてましたよ。あ、そっち側もうひっくり返していいと思います」 「え!?う、うん」 ジュージューと美味そうな音を奏でながら、総勢22個の穴たちが香ばしい湯気を立てている。 立て膝になり左手に竹串を構えた理人さんが、ごくりと喉を鳴らした。 まるで戦場に駆り出されようとしている兵士のように、ふるりと武者震いする。 「佐藤くん、じゃあ……!」 「プッ、どうぞ」 鋭くなったアーモンドアイが、今か今かとその時を待ちわびているたこ焼きの卵たちを見下ろす。 そして―― 「うわ、なんだこれ。全然回転しない!」 「ちょっと串を傾けて差し込むとやりやすいですよ」 「こ、こう?」 「はい」 くるん、と気持ちよく回転したたこ焼きを見て、理人さんが頰を緩めた。 でもすぐに俺の手元を見やり、唇で不満を露わにする。 「なんでそんなに上手いんだよ」 「高校の文化祭とかでやりませんでした?」 「やってない。俺は……」 「一年の時はお化け屋敷のお化け役に当たって半泣き、二年は劇でロミオ役に当たって半泣き、三年はミスコンに出場させられて半泣き、だよなー?」 気だるげに缶ビールを煽っていた木瀬さんが、気だるげに口を開き、気だるげに笑った。 「半泣きになんてなってない!」 理人さんは全身の毛を逆立てて反論するけど……うん、きっと半泣きだったんだろうな。 だって、想像できてしまう。 今よりちょっと……いや、だいぶミニマムな理人さんが、おっきくて丸いアーモンドアイを潤ませて、 「おばけ役なんてやだあ……っ」 って泣いたり、 「なんで俺がロミオなんだよぉ……っ」 って泣いたり、 「ミスコンなんて出たくない……っ」 って泣いたり……あ、やばい。 なんか興奮してきた――ん? 「男子校でもミスコンなんてあるんですか?」 「ミス・コンテストじゃなくて、ミスター・コンテストな。つまり、イケメンコンテスト」 「へえ!あ、もしかして理人さん、優勝?」 途端に、理人さんの頰がクリームソーダのさくらんぼ色に染まった。 「したんだ。すごいですね」 「別に……すごくなんかない。好きで出たわけじゃないし、ウォーキングとかポージングの練習とか毎日やらされて嫌だったのに、しんちゃんがやらなきゃだめって……」 「優勝者を出したクラスには校長から金一封が貰えたんだ。高校生なら、本気にもなるだろ」 「航生は出たことないから言えるんだ……!」 なにかを思い出したのか、理人さんが〝半泣き〟になる。 のそのそとたこ焼きをひっくり返す理人さんの頭を、大きな手が気だるげに、優しく撫でた。 うーん、なんだか本当に兄弟みたいだな。 もしかしたら、俺と葉瑠兄も他人から見るとこんな風に見えるんだろうか。

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